富士通とNECが脱「紺屋の白袴」 DX率先できるか

富士通とNECが脱「紺屋の白袴」 DX率先できるか

日経クロステック

他者を変えたければまず自分から――。富士通NECが「脱・紺屋(こうや)の白袴(しろばかま)」ともいえるプロジェクトに挑んでいる。全社の基幹システムを刷新し、データに基づき迅速な経営判断を下せる体制を整える。バラバラな構成だった世界のグループ企業の基幹システムを独SAP製統合基幹業務システム(ERP)パッケージで統一。業務プロセスも標準化し、経営とIT(情報技術)を一体化させた理想的な姿を目指す。

両社は顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援を事業の柱にすると表明済み。率先してDXを進め、自らを顧客向けのショーケースにする考えだ。

■富士通、世界統一システムへ

富士通が進めているのが「One ERPプロジェクト」だ。SAPや米オラクル製のERPパッケージ、独自開発アプリケーションなどバラバラな構成の基幹システムを、SAPの「S/4HANA(エスフォーハナ)」に統一する。

「グループ社員13万人、売上高4兆円規模の日本企業として最大のSAP導入事例になる」。同プロジェクトを率いる福田譲執行役員常務は、こう説明する。福田氏は時田隆仁社長に請われ、SAPジャパン社長から富士通に転じた。顧客企業のSAP導入を支援してきた立場から、ど真ん中の当事者として導入を推進する。

同プロジェクトの総投資額は非公表だが、「一般論としては500億~600億円かかる」(福田執行役員常務)。2023年4月をメドに日本の本社向けシステムを稼働させる方針だ。

規模だけでなく難度も「極大」(同)という。目指すのはグローバル・シングルインスタンス、すなわち世界の富士通グループ全体で単一のシステムを導入する。日本の富士通本体にグローバル標準のシステムを導入し、世界の各拠点は同システムをクラウド経由で利用する、といった形態が一案だ。拠点ごとのカスタマイズは、原則として認めない。

富士通はERP導入と表裏一体で社内の業務改革プロジェクトも進めている。「フジトラ・プロジェクト」と名付け、20年7月に始動した。

「19年に社長に就任した際、IT企業からDX企業へ変わると宣言した。DXはデジタル技術を適用すれば成し遂げられるものではない。業務プロセスや企業風土など、企業や団体の体質そのものを変える必要がある。顧客や社会のDXを推進すべく、富士通自身のDXに取り組んでいる」。時田社長は改革の狙いをこう述べた。時田社長は自ら最高DX責任者(CDXO)を名乗り改革の陣頭指揮を執る。

富士通の時田隆仁社長

富士通の時田隆仁社長

フジトラ・プロジェクトの推進体制として現場の事業部門から「DX Officer(オフィサー)」、CEO室に「DX Designer(デザイナー)」と呼ぶ担当者をそれぞれ設けた。「部門同士の横の連携をDX Officerが担い、経営と現場の縦の組織をDX Designerがつなぐ」(福田執行役員常務)。

■NEC、社内外のデータ活用基盤整備へ

NECは同社グループの基幹システムを従来の「SAP ECC 6.0」からS/4HANAへ刷新するプロジェクトを進めている。同時にデータ分析・活用システムも構築する。21年度中にNEC本社向けのシステムを稼働させる。既にシンガポールやタイ、オーストラリアなど海外10カ国14拠点で稼働済みだ。

同社は10年から国内外のグループ会社にSAPのERPパッケージを導入し、販売や経理、購買といった業務プロセスの標準化を進めてきた。自社の基幹系データに加え、顧客データやインターネット上のSNS(交流サイト)投稿データなど社内外の様々なデータを分析、活用できるようにするため、全面刷新を決めた。

「経営と業務、ITを一体にした改革こそ目標であり、ERPパッケージは手段にすぎない」。富士通とNECはともにこう強調する。

両社は経営戦略から組織運営、人事や会計の制度・ルール、業績やマスターといったデータ、業務プロセス、アプリケーション、ITインフラまで全てをグローバルで標準化する。IT企業が掲げる最も理想的なプロジェクトを率先垂範する考えだ。理想的であるものの、その分だけ難度も高い。

両社が目指す姿はパッケージソフトを提供する企業などとともに顧客企業へ売り込んできたものだ。では、これまでどの程度実践できていたのか。新たな事業の柱と位置付けるDX支援とは、まさにIT導入にとどまらず業務そのものを変える取り組みにほかならない。DX支援の担い手を名乗る以上、自分たちすら変えられなければ顧客の変革はおぼつかないだろう。

(日経クロステック/日経コンピュータ 玉置亮太氏)

NTTコム1万4000人の在宅勤務支えるゼロトラスト

テレワークするNTTコミュニケーションズの従業員(出所:NTTコミュニケーションズ)

テレワークするNTTコミュニケーションズの従業員(出所:NTTコミュニケーションズ)

日経クロステック

新型コロナウイルスの感染が拡大した4月以降、NTTコミュニケーションズでは約6000人の社員に契約社員や協力会社の従業員も含めた最大1万4000人が在宅勤務を継続している。それを支えているのが、VPN(仮想私設網)やVDI(仮想デスクトップ環境)への過度の依存を排した「ゼロトラスト(信用しない)」型のテレワーク環境だ。

NTTコムが新しいテレワーク環境を構築したのは2018年のこと。それまでも同社は、データをサーバーで保存するシンクライアント端末を使うテレワーク環境を従業員に提供していたが、使い勝手が悪いという大きな問題点を抱えていた。

従来のテレワーク環境においては、従業員はオフィスの外で業務をする場合、必ずシンクライアント端末を使用し、VPN経由で社内にあるVDIにアクセスし、仮想デスクトップを使ってオフィスソフトウエアや社内の業務アプリケーションを使用していた。

スマートフォンを使って業務する場合もVPN機能を搭載した「セキュアブラウザー」という仕組みを使わせ、必ずVPNを経由させていたほか、端末へのデータのダウンロードなども禁止していた。

こうした仕組みの問題点は、使い勝手が悪かったことだ。例えば電子メールを確認する場合でも、シンクライアント端末では端末を起動してVPNに接続し、仮想デスクトップでメールソフトを立ち上げてメールを確認するまでに7~8分かかっていた。スマホの場合も、セキュアブラウザーを使ってVPN接続などを済ます必要があるため、メールを確認するまでに40秒を要していた。

■データ保存できる端末持ちだし可能に

使い勝手の悪いテレワーク環境は従業員の生産性を落とす――。そう考えて18年に構築した新たなテレワーク環境では、従業員がオフィス外にノートパソコンやスマホを持ち出して、端末にデータを保存し、端末上でアプリケーションを動かして業務ができるようにした。いわゆる「FAT(ファット)端末」を社外でも利用できるようにしたのだ。

NTTコミュニケーションズにおけるテレワーク環境の変化

NTTコミュニケーションズにおけるテレワーク環境の変化

NTTコムは従業員がパソコンやスマホを社外に持ち出せるようにするために、デバイス保護やアプリケーション管理、ファイル暗号化などのツールを導入し、端末をサイバー攻撃から守る包括的な対策を施した。

従来は、インターネットと社内ネットワークとの境界にVPN機器を設置するなどの対策を施した境界型セキュリティーで守られた社内でなければFAT端末が利用できなかった。それを、境界型ではないセキュリティー対策を導入することでどのようなネットワークにあってもFAT端末が利用できるという、ゼロトラスト型のやり方に切り替えたわけである。

具体的には、まずデバイスの保護に「EDR(エンドポイント検知・対応)」と呼ぶツールである米マイクロソフトの「Microsoft Defender Advanced Threat Protection(マイクロソフト・ディフェンダー・アドバンスド・スレット・プロテクション、ATP)」を採用した。国内外でセキュリティー事業を展開するグループ企業のNTTセキュリティと連携しながら、デバイスへの攻撃をいち早く検知し対策を講じる体制を整備した。

Windowsパソコンに関しては「TPMセキュリティーチップ」を使った暗号化機能である「BitLocker(ビットロッカー)」や、生体認証の「Windows Hello(ウィンドウズハロー)」も利用している。

また、モバイルデバイス管理/モバイルアプリケーション管理(MDM/MAM)ツール「Microsoft Intune(インチューン)」によって、デバイスの利用をアプリケーション単位で細かく制御している。例えばスマホの利用は「会社領域」と「個人領域」に仮想的に分割。業務で利用するクラウド経由のアプリ(SaaS=サース)は会社領域でなければ利用できず、会社領域のアプリのデータを個人領域に持ち出せないようにしてある。

このほか外部に機密ファイルが漏洩する事態を想定し、データを自動的に暗号化する「Azure(アジュール)RMS」も利用している。

■「VPN渋滞」を回避

NTTコムがテレワーク環境をシンクライアント端末からFAT端末に移行した背景には、17年5月全面施行の改正個人情報保護法に伴う情報漏洩の扱いに関する国の方針の変更があった。

新しい指針においては、高度な暗号化などの秘匿化が情報に対して施されている場合であれば、その情報を保存した端末を紛失したような場合であっても、情報そのものは外部に漏洩していないとみなされるようになった。シンクライアント端末を使う必要がなくなったため、使い勝手の良いFAT端末に切り替えたわけだ。

テレワーク環境を快適に利用する仕組みも取り入れた。多くの企業ではインターネットへの出口をデータセンターのファイアウオールなどに限定しているが、そこにSaaS向けの通信が集中することでボトルネックになる、いわゆる「VPN渋滞」と呼ばれる事態が生じがちだ。

NTTコムはデバイスからの通信経路を自動的に切り替える技術「スプリットトンネリング」を採用。SaaSについてはインターネット経由で直接利用する。オンプレミス(自社サーバー)の業務システムを利用する際は、SSL暗号通信を行うSSL-VPNに自動的に切り替えて社内に接続する仕組みにして、VPN渋滞を回避している。

同社はこのようにデバイスからアプリケーション、データまできめ細かく制御するテレワーク環境を構築していたことで、新型コロナ禍でも大規模な在宅勤務スムーズに移行できた。

人けの無くなったNTTコミュニケーションズのオフィス(出所:NTTコミュニケーションズ)

人けの無くなったNTTコミュニケーションズのオフィス(出所:NTTコミュニケーションズ)

使い勝手も大きく向上した。シンクライアント端末時代は端末を起動してからメールを確認するために7~8分かかっていたのが、新しいFAT端末ではその時間が1分にまで短縮した。スマホでのメール確認までにかかる時間も、セキュアブラウザーを使っていた従来の環境では40秒かかっていたのが、10秒にまで短縮した。

さらに現在は、テレワーク環境の構築・運用で培ってきたゼロトラストネットワークを社内の隅々まで行き渡らせようとしている。背景にあるのが5月に発覚したサイバー攻撃の被害だ。

■サイバー攻撃被害で対策徹底へ

同社は5月28日、法人向けクラウドサービスの運用サーバーなど自社設備に対する不正アクセスで顧客情報が外部に流出した恐れがあると発表。7月2日には社員になりすました攻撃者による別のサイバー攻撃も受けていたと公表した。

「反省すべきは『社内なら安全』との考え方を残していたこと。ゼロトラストの観点に立って対策を急がなければならない」と、NTTコムの久野誠史デジタル改革推進部情報システム部門担当部長は話す。

実は最初に攻撃者の侵入を許したのは撤去予定だったサーバーで、EDRによる防御の対象ではなかったという。またNTTコムは全社の認証基盤に「Azure Active Directory(アジュール・アクティブ・ディレクトリー)」を利用してIDを一元的に管理しているが、今回攻撃を受けたシステムでは、それが徹底できていなかった。

目下、NTTコムは足元の対策から中長期的な対策まで幅広い再発防止策を進めている。まずはEDRの全社展開を急いでおり、ファイルの利用権をきめ細かく管理する「Azure Information Protection(アジュール・インフォメーション・プロテクション、AIP)」も20年内に本格導入する方針だ。AIPは暗号化されたファイルを開くたびにIDを認証するツールで、ファイル配布後に利用権を取り消したり、どの場所からアクセスされたかを確認したりできる。

また、社内から業務システムにアクセスする際は常に多要素認証を使うことを検討している。オンプレミスの業務システムを段階的に縮小してSaaSに移行させる取り組みも、これまで以上に強化するという。

今回のサイバー攻撃はNTTコム社内の「ゼロトラストネットワークになっていない」範囲を弱点として突いたものとみなせる。言い換えれば、ゼロトラスト型の対策が現代のサイバー攻撃への備えとしてますます重要になっている、ということでもある。

(日経クロステック/日経コンピュータ 高槻芳氏)

ビジネスの成否は優先順位の見極め、試される決断力

意思決定はジレンマとの戦い

私が経営スタッフだった頃、役員会にかける提案の資料づくりをよくやらされました。どこから突っつかれても説明できるよう、膨大なデータと分析を要求されたものです。何度上司に持っていっても、「○○が足りない」「△△も用意しておいてくれ」と言われ、キリがありません。

揚げ句の果てに、「これじゃあ分からん。誰が見ても判断できるような資料を用意しろ」と言われる始末。「だったら小学生に役員をやらせたら?」と思わず言いそうになりました。

もちろん、必要な情報がないと判断はできません。しかしながら、すべての情報を集めて判断することはできず、それをやっていたら機を逸してしまいます。合理性に限界がある「限定合理性」の中で意思決定をするのがリーダーの仕事です。あわせて読みたい視点と視野と視座は何が違う? 対義語も思考ツールに本当の問題をしっかり探り出す3つの条件

それに、多くの場合、意思決定にはジレンマを伴います。感染症の拡大を防止しようとすると、経済にダメージを与えてしまう、といったように。健康と経済のどちらを優先するか、まさに決断が求められます。

方策を考えるときも同じです。打ち手をいろいろ考えても、全部できるわけではありません。総花的にやるよりは、効果的な策に集中したほうが、得られるものが多くなります。

そのために必要となるのが「重点思考」です。「今何が重要か?」「中でもどれが大事か?」と、優先順位をつけて考えるのです。そうやって、大胆にメリハリをつけ、要領よく進めていかないと仕事は回りません。

多面思考と重点思考をセットで使う

先回は「多面思考」を取り上げ、いろんな視点・視野・視座から考えること重要性をお話ししました。ところが、多面思考をやればやるほど、考えがまとまらなくなる恐れがあります。

そんなときは、「どの視点・視野・視座を優先させるか?」を決めないといけません。つまり、多面思考は重点思考とセットにして使わないと、実際にはうまくいかないのです。

たとえば、「〇〇すればもっと売り上げが伸びる」と主張する人がいたとしましょう。その考えが浅いと思ったら、多面思考で考えを広げることを促すようにします。

「売り上げだけでいいの? 利益は考えなくてもいい?」(視点)、「短期的にそれでよくても長期的には?」(視野)、「自社によくても競合はどう出るだろうか?」(視座)といったように。あるいは「他に?」だけでもよいかもしれません。

そうやって、いろんな観点で考えられたら、次は重点思考の出番です。「なかでも、どの視点が重要?」「どのアイデアが最も望ましい?」と問いかけて、考えを絞り込んでいきます。

ここで大切なのが、2つの思考をきっちりと分けることです。両者を混ぜて使うと、それぞれの良さを台無しにしてしまいます。多面思考をやっていうちに、「分かった。△△すればいいんだ」と早合点をしてしまう「飛びつき病」が悪い例の典型です。

特に大人数で議論しているとそうなりがちです。「意見を発散する(広げる)ステージと収束する(絞り込む)ステージを混ぜない」という会議の原則を忘れないようにしましょう。

重要なことに資源を集中する

重点思考を進める上で大事なのが、重要なものを見極めることです。

重要とは、物事の本質や根本に大きく関わる、価値の極めて高いことです。大げさに言えば、それによって自分たちの行く末が決まるようなものです。

ビジネスに当てはめると、目的の達成に大きく貢献したり、その成否に多大な影響を与えたりすることが、重要なものに他なりません。つまり、目的をはっきりさせることが、重要なものを見極めるための一番のポイントとなるわけです。

ビジネスでは、重要な20%によって結果の80%が生み出されているという「パレートの法則」が働くことがよくあります。上位20%の顧客(商品)が売り上げの80%を占めている、20%のセールスパーソンが全体の80%の販売を担っている、重要な20%の業務が仕事の80%の成果を生み出している、といったように。

だったら、重要なものに資源を集中するのが効率的です。残りは完成度を少し落としたり、アウトソーシングをしたり、もっと効率的なやり方に切り替えることを考えます。

そもそも、人はマルチタスクができるようにデザインされていません。多くの人は、シングルタスクで一点集中するほうが仕事の効率も高まります。

マネジャーの一番大切な仕事とは?

この考えを組織全体で進めていくのは大変です。目的を理解していない人がいたり、瑣末(さまつ)なことにとらわれる人がいたりして、「何が重要か?」のベクトルがそろわないのです。

そこで大切になってくるのがマネジャーです。

マネジメントを日本語で「管理」と訳したために、マネジャーの役割を勘違いしている人がいるかもしれません。部下に仕事を割りつけて進捗をチェックするのが本務ではありません。それはコントロールであってマネジメントではありません。

動詞のmanageは「どうにかする」「何とかする」というのが原意です。たとえば、海外から来たお客様に今夜の接待を申し出たとこと、I can manage by myself(自分でどうにかしますから)と辞退されることがあります。Manageとはそんなときに使う言葉です。

一番しっくりくる日本語は「やりくり」だと思います。与えられた資源(ヒト・モノ・カネ)をやりくりして、どうにか組織の目標を達成する。それがマネジャーの本務です。

そのためには、「何を目指しているのか?」「今何をすべきか?」が共有できていないと始まりません。つまり、マネジャーの一番大切な仕事は、「何が重要か?」、言い換えると仕事の優先順位をブレずに全員に徹底させることです。重点思考の旗振り役に他ならないのです。

平時はもちろんのこと、非常事態になればますますそうなります。右往左往する現場に的確に方向性を示せないと、組織の力がひとつになりません。不透明で不確実な時代に生きるからこそ、重点思考が私たちに求められているわけです。堀公俊
日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「ファシリテーション入門第2版」「会議を変えるワンフレーズ」など。

伊藤忠系VC、社会人対象の起業家育成 事業計画を助言

伊藤忠商事子会社のベンチャーキャピタル(VC)、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV、東京・港)は起業家育成に乗り出す。主に社会人を対象に事業アイデアを募集し、有望なチームにはITVの投資担当者らが4~5カ月間、事業計画などを助言し、ITV以外のVCとの橋渡しも行う。12日から1回目の募集を始める。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズの投資担当者らが起業家の卵に直接助言を行う

画像の拡大

伊藤忠テクノロジーベンチャーズの投資担当者らが起業家の卵に直接助言を行う

育成プログラムの名称は「KAKUSEI」。社会人経験者や企業に在籍中の人が主な対象となる。まず8チーム前後を選抜し、11月上旬から事業案の改善に向けた助言を行い、伊藤忠グループの営業網なども活用して情報収集を手助けする。改善した事業案は2021年4月上旬に投資家向けの発表会で披露する。半年を1サイクルとして年2回程度の開催をめざす。

プログラムは小売り、通信・IT(情報技術)、医療・ヘルスケア、働き方、交通や観光など地方再生を重点分野とする。新型コロナウイルスの影響で日常生活や経済活動に大きな変化が起きるなか、デジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめとするアイデアを集める。

伊藤忠系VC、IT新興発掘へ100億円ファンド

伊藤忠商事子会社のベンチャーキャピタル(VC)、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV、東京・港)は100億円を運用するファンドを立ち上げた。主に国内や米シリコンバレーのIT(情報技術)スタートアップへの投資を狙う。新型コロナウイルスの感染拡大で資金調達が難しくなるなか、有望な投資先に出資できるチャンスが増えると見ている。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、ドローンを使った設備点検サービスを提供するセンシンロボティクスにも出資している

画像の拡大

伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、ドローンを使った設備点検サービスを提供するセンシンロボティクスにも出資している

ファンドの名前は「テクノロジーベンチャーズ5号投資事業有限責任組合」。伊藤忠グループ各社のほか中小企業基盤整備機構(中小機構)やみずほ証券、三菱UFJ銀行、りそな銀行なども出資する。ITVは2000年に設立し、これまでの運用総額は約300億円だった。

ITVが出資したドローン制御ソフト開発のセンシンロボティクス(東京・渋谷)は、このほど伊藤忠本体と協業を始めた。ドローンを使った工場などの設備点検サービスを連携して販売する。伊藤忠はコロナ収束後の人手不足も見据え、先進技術を確保するため、ITVのネットワークを活用していく考えだ

人手不足産業に「出向」 政府、労働移動支援に軸足

厚生労働省 雇用調整助成金 9月30日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

インターネット通販への消費シフトにより、物流でも人材需要は大きい

インターネット通販への消費シフトにより、物流でも人材需要は大きい

雇用政策の軸足が、これまで働いてきた企業での雇用維持から、人手不足の産業への移動支援に移り始める。政府は2021年1月から雇用調整助成金の特例措置を段階的に縮小するのに合わせ、業種を超えた出向や新たなスキルの習得を後押ししていく。「失業なき労働移動」に成功するかどうかが経済回復のカギを握る。

新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の収縮で、企業が内部に抱える休業者は一時600万人近くに膨らんだ。政府は従業員に休業手当を支払う企業を支援する雇用調整助成金の特例措置で雇用維持を図ってきたが、人手不足の産業への労働力移動を妨げるとの指摘も出ていた。

このため、厚生労働省は25日に決めた21年度予算の概算要求に労働力移動を支援するメニューを盛り込んだ。

国と都道府県の職業能力開発施設や、NPOが運営する教育訓練機関の教育費用を負担する。職を一時的に失った人が無料で職業スキルを学び、すぐに再就職できるように後押しする。要求額は990億円超とし、政府が予算案を決める年末の段階で積み増すこともできるようにした。

経営が厳しく雇用が過剰になった企業から人手不足の企業に向け、人材が在籍出向の形で移るのを支援する予算も求める。公益財団法人の産業雇用安定センターが人手の過剰業種と不足業種の両方から情報を集め、無料でマッチングする。同センターは47都道府県に事務所をおき、地域の業界団体と協力していく。

経済産業省は若い世代を中心に、ものづくりを担う地方の中小企業などに人材が移るのを後押しする。概算要求で30億円を計上し、人材の確保やデジタル技術の活用に積極的な企業を支援する。

同省も社会人の学び直しを支える予算を盛り込んだ。問題解決の能力を高め、新規事業を生み出せるようにするプログラムを始めるという。

厳しい情勢の続く雇用も、業種別にみるとばらつきが大きい。宿泊や外食などで就業者数の落ち込みが続く一方、人手不足が常態化している介護の有効求人倍率は7月に3.99倍に達した。

自宅から近い小売店やインターネット通販への消費シフトにより、スーパーや物流でも人材の需要は大きい。通販や在宅勤務を支えるデジタル人材のニーズも高く、情報通信業の7月の就業者数も前年水準を上回る。

第一生命経済研究所の田中理氏は「コロナによる社会の変化は長期化する」と指摘する。そのうえで「政府による特定企業での雇用維持策が長引くと、急ぐべき産業構造の転換が進まない」と語り、労働力移動に軸足を移していくことを主張する。

社会人の再教育により、デジタル人材を育てる取り組みでは欧米に後れをとっている。日本の再教育は産学官の連携が乏しく、労働市場のニーズとの開きが大きい。厚労省と経産省は教育内容の改善を急ぐ。

英国は休業者の給与や所得の80%を支援してきたが、10月に60%に減らす。欧州各国はデジタル技術の学び直しへの支援策を充実することで、コロナ後の成長力を高めようとしている。

厚労省は中小企業に最大100%助成し、支給上限額も日額1万5千円に引き上げた雇用調整助成金の特例について、21年1月から縮小する方針をすでに示している。

日本の7月の失業率は2.9%と前月から0.1ポイント悪化し、年末にかけてさらに上昇していくとみられる。厚労省の集計では、コロナ関連の解雇・雇い止めは見込みを含めて6万人を超えた。

雇用調整助成金による支援を急速に縮小すれば失業率の急上昇や社会不安を招く恐れもある。厚労省は雇用情勢や労働力移動の状況を見ながら、慎重に進める考えだ。

65歳以上、人口の28.7%に 4人に1人が就業。総務省推計、働く高齢者16年連続増

総務省が敬老の日を前にまとめた15日時点の人口推計によると65歳以上の高齢者人口は前年比30万人増の3617万人だった。総人口に占める割合は0.3ポイント上昇の28.7%でともに過去最多を更新した。2019年の65歳以上の就業者数は18年より30万人増の892万人で過去最高だった。

「団塊の世代」と呼ばれる1947~49年生まれを含む70歳以上の人口は78万人増の2791万人となった。後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上人口は24万人増の1871万人に上った。

日本の総人口は前年に比べて29万人減の1億2586万人となる一方、高齢者人口は増え続けている。

国立社会保障・人口問題研究所の推計で、高齢者の割合は今後も上昇が続く。第2次ベビーブーム世代(1971~74年生まれ)が65歳以上になる2040年には35.3%になる見込みだ。

一方で19年の65歳以上の就業者数は16年連続の増加となった。15歳以上の就業者総数に占める割合も18年に比べて0.4ポイント増の13.3%と過去最高だった。

65歳以上の高齢者の就業率は24.9%だ。13年に20.1%と2割を超え、6年でさらに4.8ポイント上昇した。男女別で見ると、男性は34.1%、女性は17.8%となった。いずれも8年連続で増えた。

足元は新型コロナウイルスの感染拡大による影響が出ていた。20年の統計をみると政府が緊急事態宣言を発令した4月の65歳以上の就業者数は前年同月比で7万人減った。5月以降は回復して増加に転じ7月は同29万人増の910万人だった。

19年の統計を業種別に見ると、卸売業・小売業が126万人で最多だった。農業・林業が108万人、サービス業103万人、製造業が94万人で続いた。

役員や自営業者を除く雇用者は503万人で、全体の56.9%を占める。このうち非正規の職員・従業員は389万人と77.3%で、4人に3人は非正規だった。

非正規の職員・従業員の高齢雇用者について理由を聞くと、男女ともに「自分の都合のよい時間に働きたいから」と答えた人が最も多かった。

「出産は突発的事故」だった 女性活躍の道のり長く

政府は「2020年までに指導的立場の女性を3割にする」という目標について、年末を待たずに達成時期の先送りを決めた。働く女性は増えたが、コロナ禍で大きな痛手を受けているのもまた女性だ。橋本聖子・女性活躍担当相に「女性の活躍」政策の評価と、今後の取り組みについて聞いた。

――年内に策定予定の第5次男女共同参画基本計画で「20年代の早い段階での30%達成」を目指すとのことです。現状をどう受け止めていますか。

安倍晋三内閣の約8年で新たに330万人超の女性が就業し、子育て期にいったん仕事を離れ就業率が下がるM字カーブの解消も進んだ。そもそも少ないとはいえ、上場企業の女性役員は3倍以上になった。ただ、諸外国が非常に進んでいるので、ジェンダー・ギャップ指数ランキングは121位と前年より下がっている。中でも低いのは政治分野だ。各政党にお願いしながら、自民党内でも理解を進めていく必要がある。女性は家庭、男性は仕事という固定的な考え方が、年代によってまだまだ多いのが問題だ。

30%の目標は一年でも早く達成したい。それには今まで以上のスピード感が必要だ。女性の声をしっかり聞き、やりたいことを形に変えていく。土台はしっかり構築されてきている。無理やり数を達成するのではなく、みんなで目標に向かって楽しく進みたい。

20年に30%という目標を最初に掲げたのは17年前。当時は必ずしも社会全体で十分に共有されなかった。私自身、00年に最初の子を出産したが、現職の国会議員としては50年ぶり。産休は認められておらず、休み願いを提出する際も理由の欄に出産という項目がない。その他の欄に理由を書くよう言われ、何と書けばよいか尋ねたら「突発的事故」と。ぶっ飛んだ。

出産して1週間で復帰し、議員会館にベビーサークルを作って授乳しながら会議に出たが、世間は賛否両論でノイローゼになった。休むべきではないという意見もあれば、堂々と産休を取ってくれたら私たちも取りやすいのに、というファクスも女性からいただいた。

同じ時期に海外では当たり前のように政治家が出産し、米国では男性が妻の出産のため休暇を取っていた。最近は多くの女性議員が出産するようになり、話題にもならなくなった。話題といえば小泉進次郎環境相だろうが、これからは国民に選ばれた議員だからこそ、しっかりと示していくことが大事だと思う。皆さんと一緒に男女共同参画を展開していくことが必要だ。

――コロナ禍で女性の雇用が縮んでいます。現状をどのように捉えていますか。

影響はこれから調査し、対応していく。また、こういう状況だから見えてきた新しい職業もある。例えばコロナ禍で病院に行かなくなる人が増えた。通院者が減るのは本来いいことだが、今は病院の収益を圧迫している。これを機に予防医療に力を入れてはどうか。地域の医療機関が中心となってスポーツ、食、科学技術、観光などを組み合わせ、新しい産業を創り出す。健康寿命の延伸は私のライフワークの一つで、スポーツ界では予防医療を徹底している。そこに女性の視点を入れることで、世界に発信できる産業を育てる。全てがマイナスではなく、どんな困難なことでもチャンスと捉えたい。

――世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数では特に政治分野での男女格差が大きく、海外では議員や候補者に一定数の女性を割り振るクオータ制を導入して課題解決を図っています。

女性に政治参画してもらうための教育を地方の議会や政党と取り組みたい。数合わせで立候補してもらっても、女性の政治家が活躍しやすい環境が整備されていないと萎えてしまう。

環境整備が遅れると数が増えないから、まずはクオータ制などの法整備を、という声もあるだろう。今は各政党が議論するところまで意識改革を進めたい。有権者の半分以上が女性。議員も女性が半分いて当然だ。

(中村奈都子氏・女性面編集長)

なりたい自分を育てる 「グループ内大学」1期生の挑戦

にほんブログ村 企業ブログへ
にほんブログ村

東京海上日動火災保険 営業開発部 兼業グループ山本 早紀さん

東京海上日動火災保険の山本早紀さん(35)は4月、関西地方の営業担当から、東京の本店で、保険販売を兼業する全国の代理店や営業第一線を支援する部門へと異動した。自分の思い描くキャリアビジョン実現のために、挑戦したいポストに応募できる同社の制度を利用。背中を押したのは、昨年、新設の「グループ内大学」で1期生として学んだ経験だ。一緒に働く仲間がやりがいを持って楽しく働けるように――。そんな未来図を胸に、新たなステージで第一歩を踏み出した。

「女性活躍推進プロジェクトのリーダーに」の一言から始まった

山本さんは現在、自動車整備業を営む会社の団体本部の担当や、全国の営業の支援、人材育成等に携わっている。提案資料をつくったり打ち合わせをしたり、社外とやり取りする仕事のほか、社内の営業担当向けに各地の取り組み事例などを発信するニュースメールの発行や、研修の企画・運営にも奮闘する。

tmn_yamamoto01_680x432.jpg
山本さんは4月、希望のポストに挑戦できる制度を使って京都の支社から東京の本店に転勤

「どうやったら皆さんが第一線で動きやすくなるだろう、やりがいを持って働けるだろうとアイデアを練る時間が一番楽しい」。山本さんが今の部署への異動を希望したのは人材育成に興味があったから。研修カリキュラムなどを考える発想力やスピード感がまだ足りないというもどかしさもあるが、念願のポストでの仕事の滑り出しに手ごたえを感じている。

1年前の今ごろは京都南支社にいた。保険販売を兼業する代理店を担当する営業のポジションから一転、キャリアチェンジを決意したすべての始まりは、昨年春のある打診だった。

「プロジェクトリーダーになってくれませんか」。京都南支社が属する京都支店が立ち上げることになった女性活躍推進プロジェクト。2024年までに全社で「主任以上に占める女性の割合が半数以上になることを目指す」という目標が掲げられるなか、50人を超える女性社員を抱える京都支店は達成に向けてどう取り組むか。そのための施策を立案するプロジェクトのリーダーとして、ちょうど支社の営業統括に抜てきされたばかりの山本さんに白羽の矢が立った。

tmn_yamamoto02_680x420.jpg
新型コロナウイルス流行のなか、新しい環境で日々奮闘している

決まっていたのはプロジェクトの会合の日程だけ。支店での女性活躍推進にどんな課題があり、どんな施策を打つのか。プロジェクトの進め方は山本さんに一任された。4月の第1回会合の日 、京都支店の会議室に集まった各支社のプロジェクトメンバーと話し合い、まずはそれぞれの支社の女性社員に自身の成長のために必要なことや、自分に足りていないと思う部分をヒアリングしていくことにした。ヒアリングを担当するメンバーの年代も職種もばらばらなら、集まった声も多種多様。それぞれの業務をプロジェクト活動と両立させるため、すべての声を取り上げるのではなく、多く上がった課題をグループ分けして施策を考えていこうという方向が見えてきた。

プロジェクトそのものは着実に前進していったが、山本さんはリーダーとして、メンバーを引っ張るにはもっと幅広い知識が必要だと痛感していた。さまざまな人の考え方を知る機会が欲しい。そんなとき、会社から1通の案内が届いた。

キャリアカレッジの学びを持ち帰る

tmn_yamamoto04_680x377.jpg
社外とのやり取りが多い営業の仕事。社内プロジェクトやキャリアカレッジとの両立には苦労もあった

東京海上ホールディングスがグループの女性社員向けに新設した「Tokio Marine Group Women’s Career College(TWCC)」の参加募集だった。半年間、キャリアをテーマに グループディスカッションなど参加型の授業を月1回受ける内容で、第1回のテーマはずばり、女性とリーダーシップ。「これだ」と直感し応募。2倍を超える倍率をくぐり抜け「入学」が決まった。

9月、授業がスタートした。普段の業務と女性活躍推進プロジェクトにTWCCが加わり、多忙を極める日々。けれど、「第1回に出席してすぐ、応募して正解だったと確信した」。

tmn_yamamoto05_340x360.jpg
TWCCのカリキュラム策定など運営に携わった事務局の仰木綾子さんは、オンライン開催となる第2期を前に、参加者のコミュニケーションを活発にする方法に知恵を絞っている

ワークシートに並ぶ十数個のキーワードから、自分が大事にしているものを選んでエピソードを話すグループワークに取り組んだ。山本さんが選んだのは「責任」。中学時代にバレーボール部のキャプテンに任命された経験を話した。周囲には「協力」などを選び、協調性を重んじる人が多かった。さっそく価値観の多様さを実感するとともに、「協調性、共感力を大事にする女性が多いとしたら、女性がたくさんいる京都支店でも話し合いや相互理解を大切にしたらうまくいくんじゃないか」と考えた。京都に帰り、さっそくプロジェクトのメンバーで同じグループワークを実施。それぞれが重視するキーワードや考え方が多様であることを全員で共有した結果、「個性の違いを尊重するだけでなく、その違いを生かしていけば新しいアイデアにもつながりそうだという考えが生まれた」という。

TWCCのカリキュラム策定など運営に携わった、東京海上ホールディングス人事部ダイバーシティ&インクルージョン推進チームの仰木綾子さんは、「参加者から、受講を通じて自信がついた、成長できたなど自分の変化だけでなく、周りにフィードバックしていきたいという声が上がったのが印象的だった」と振り返る。授業でディスカッションを重ねるうちに受講生同士のコミュニケーションも活発に。「もともと自己開示が苦手だった」という山本さんも徐々に発信力を鍛え、それを京都でのプロジェクト活動や支社の統括業務に生かすサイクルが生まれていった。

自分からキャリアビジョンを描き出す

TWCCでの学びが深まるにつれ、リーダーを務めるプロジェクトチームも進化していった。例えば社内の女性の働き方や思いなどを聞く座談会企画。業務時間を割いて開催していたが、メンバーの一人から「せっかくみんなの思いを共有できたので、これをもっと業務に生かせないか」と問う声が出た。すぐにチームで話し合い、座談会を開いて終わりにするのではなく、1カ月後に振り返りの機会を設け、参加者が座談会で得たことを日々の行動に生かす意識を持てるようにした。「決めたことをやり遂げるよりも、メンバーの意見をどんどん取り入れて、プロジェクトを走らせながらやり方を改良していった」

tmn_yamamoto06_680x429.jpg
営業担当向けの研修のアイデアをふくらませる時間にやりがいを感じている

あるとき座談会の参加者からこんな声が寄せられた。「自分は年次が浅いから、自分より役職が高い人はほかにいるから、と思う気持ちは甘えだったと気づきました」。座談会で登壇した女性が語った、「出向先で最終判断する立場にいる。メンバーにとって私が最後のとりでなので、覚悟を持って決断している」という言葉を聞いて、自分に与えられた仕事に責任を持ち言い訳をせずに取り組む姿勢を学んだという。

プロジェクトの取り組みが、参加者の考え方の変化に結び付いた――。もともと、営業第一線で一緒に働く仲間がやりがいを持って働ける環境をつくりたいという思いはあった。その思いがますます強まったころ、現在のポストへの異動希望の募集を知る。手を挙げるのに迷いはなかった。

「今までは自分の仕事をしっかりやっていれば成長できたけれど、これからは周囲を引っ張って組織全体を見ていきたい」。チャレンジしたいと思った仕事に向き合うことができた今、山本さんはそう未来図を描く。女性活躍推進プロジェクトリーダーへの抜てきに始まり、TWCCでの学びを経た自分のなかから生まれたキャリアビジョン。これからも山本さんを支え、導き、周りを巻き込んで広がっていきそうだ。

tmn_yamamoto07_680x408.jpg
一緒に働く仲間を思う山本さんの笑顔は明るい

答えは自分自身で見つける ~Tokio Marine Group Women’s Career College創設の狙い

tmn_yamamoto08_680x377.jpg
TWCCの立ち上げを指揮した人事部長の鍋嶋美佳さん

東京海上ホールディングスが2019年9月に開講した「Tokio Marine Group Women’s Career College(TWCC)」は、グループの女性社員向けのプログラムだ。女性が自らキャリアビジョンを描いて活躍できるように、昭和女子大学が運営するキャリアカレッジの熊平美香学院長の監修のもと、独自のカリキュラムを設計。第1期は全国から募集人数の2倍を超える応募があった。

「東京海上グループは女性活躍推進に長く取り組んできたが、女性の働き方や役割が変化するなか、自分のキャリアに対する不安や迷いの声も出てきていた」。東京海上ホールディングス人事部長の鍋嶋美佳さんはTWCC創設の背景をこう説明する。「ダイバーシティー先進国」である前任地の米国で、女性に特化した研修が広がっていることに注目。「どう働き、どう生きていきたいか。答えを与えるのではなく、自ら答えをみつける力をつけられるプログラムを目指した」

研修を手がけるグループ会社からもメンバーを集めてチームをつくり、半年かけて全6回のカリキュラムを練った。「女性とリーダーシップ」「デザイン思考」といったテーマを設定。鍋嶋さんが実際に米国で参加した女性向け研修もヒントに、「受講生同士でディスカッションして刺激し合うことで、自分の中の考えに気づいてもらうことを狙った」という。

募集を始めるとグループ19社から定員を大幅に超える約170人もの応募があり、ニーズの高さに手ごたえを感じた。指名制ではなく、自発的な参加を重視して受講料や交通費は自己負担としたが、地方からも多数の参加希望が寄せられた。今年の第2期に向けて開催した「卒業生」によるオンライン説明会は、全国から約200人が視聴。鍋嶋さんは「第1期の受講生からは、自分の強みを業務に生かしていきたいというコメントがあった」とTWCCでの学びや経験が実践されていると感じている。「上級コースの新設などプログラムを進化させながら、修了後も受講生のネットワークを継続させるための企画も考えていきたい」と次の構想も温める。PROFILE山本早紀(やまもと・さき) 2008年4月入社。滋賀支店の営業サポートチームを経て、同10月、彦根支社(現滋賀中央支社)に異動。2016年4月、京都支店の京都南支社に移り、専業代理店、兼業代理店の営業担当として活躍。2019年には支社の統括業務や、支店の女性活躍推進プロジェクトのリーダーとして奮闘した。2020年4月から現職。スポーツ観戦が「むちゃくちゃ好き」で、特にプロ野球の応援が貴重なリフレッシュタイム。滋賀県出身。

増やせ女性校長 学校から身近なリーダーを

にほんブログ村 主婦日記ブログ ワーキングマザーへ
にほんブログ村
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村
今里小学校の山口校長は「女性教員の働き方にも配慮したい」と話す(大阪市)

今里小学校の山口校長は「女性教員の働き方にも配慮したい」と話す(大阪市)

子供に身近なリーダー、校長に女性を推す動きが広がり始めた。2018年の経済協力開発機構(OECD)調査で日本は小学校と中学校長の女性割合が最下位クラス。事務や部活動など長時間労働を見直して女性が就きやすくし、多様な社会の早期実現を目指す。

■保護者対応や事務に追われる教員 校長の女性比率低く

「母が近所に住んでいたからできたけど……」。日野市立三沢中学校の石村康代校長は振り返る。小学生の息子を抱えた約14年前、管理職になった。特に副校長時代は「保護者対応や会議に追われる毎日だった」。

画像の拡大

OECD調査では中学校長の女性比率は7%で調査30カ国地域中最下位。平均47%と比べ大差がついた。

女性管理職が増えないのは家庭との両立が難しいためだ。特に教頭の労働時間が長い。国立女性教育会館(埼玉県嵐山町)が実施した調査では1日の平均的な在職場時間が12時間以上の教頭、副校長は小学校で75%、中学校で81%だった。

校長になるには教育委員会が実施する管理職試験を受けたのち、教頭として実績を積むことが多い。業務は校長補佐から保護者対応、事務に至るまで多岐に及ぶ。生徒のためにと残業をいとわない「聖職意識」のあまり「本来効率化できるはずの作業に追われることも多い」(国立女性教育会館の飯島絵理研究員)。

部活動も一因だ。管理職試験は校長の推薦を受けた教員が受験するのが一般的だが「部活動に熱心な教員が評価されがち」(飯島氏)。家事や子育てを理由に担当できないと不利になる。小学校(18年の女性比率23%)と比べ、女性登用が進まない理由だ。

■事務作業や部活指導の負担減らし 働き方改革

現状を変える動きはある。佐賀県多久市は田原優子教育長が推進役となり、残業時間の削減に取り組む。自身も2児の母だ。「教員時代は忙しさのあまり泣いたこともあった」と働き方改革の必要性を説く。

まず着手したのは事務作業の効率化だ。17年度にクラウドを導入し、学習記録などを紙に記入する手間をなくした。授業で使うプリントも前年分のデータを加工すれば済むようにした。

部活動も週5日に制限。地域のクラブチームと部活は異なるため「時間内にできることをすればいい」(田原氏)。今後は少子化が進む学校同士の部活の統合や外部コーチの活用も検討し、教員の負担を減らす。

教員や管理職1人あたりの残業時間は19年度に月平均33時間と、2年前に比べ16.4時間減った。生徒のためにという長時間労働を容認するのではなく「仕事の優先順位を付けることが大切」(同)と話す。

管理職試験の改革を進める自治体もある。東京都教育委員会は17年度に46歳以上のベテラン教員が受験資格を持つ主幹教諭に昇格していなくとも、管理職試験を受けられるようにした。該当年に子育てなどで昇格試験を受けられなかった事情に配慮。18年度には育児で休職中の教員も選考を受けられる制度も整えた。

併せて管理職の負担減にも取り組む。17年度に副校長の補佐人材を配置する制度を設けた。申請があった公立小中学校に校長経験者などを紹介し、費用は都が負担する。20年度は3割が試験導入し、小学校で週約8時間、中学校で約4時間分の残業を削減した。

■女性教員の活躍 子供たちの意識形成に影響

教育現場も多様性が求められている。広島県教育委員会の平川理恵教育長は「外国人やLGBT(性的少数者)など生徒が多様化する中、指導者も変わる必要がある」と指摘する。リクルート出身で、民間人の登用制度を利用し横浜市立中学の校長に就いた「異端」だ。自身も当時小学1年生の娘を育て、「関心がある」と未経験の教育現場に足を踏み入れた経験を持つ。

平川氏自身も校長時代は業務効率に取り組んだ。「子供のどんな資質を伸ばしたいのか明確にすればやるべき仕事が見えてくる」。地域の祭りの焼きそば提供など「子供の成長に直接つながるとは言いがたい」業務はやめた。定例だった2年生の遠足も「教員の繁忙期と重なる」と廃止した。

反対に生徒のためになることは積極的に取り入れた。例えば高校入試の面接対策は地域の人事経験者に協力を得て生徒が練習できるようにした。保護者と連携を深めるため、月1回「茶話会」も開いた。カウンセラーを招くなど子育ての悩みを打ち明ける場にした。参加するのは母親が多く「母親同士分かり合える」。

大阪市立今里小学校の山口祐子校長は「家事も仕事も完璧にこなそうと思わないことも大切」と話す。教頭時代は残業時間が月110時間を超えることもあった。「家がぐちゃぐちゃでも、決して自分を責めないようにしていた」

国立女性教育会館の飯島研究員は「教員の働き方が子供たちの性別の役割分担意識に影響を与える可能性がある」と話す。19年に約150人の小中学生に「なぜ女性校長が少ないと思うか」と聞いたところ「だんしのほうがえらいから」「男の先生の方がしっかりしているから」などの回答が目立った。子供たちの眼前で女性リーダーが活躍する姿を見せることは、社会全体の意識改革を進める早道になる可能性がある。 新型コロナウイルスの影響で、教育現場の負担は増えている。授業や行事の変則的な対応に加え、教員は消毒など本来の業務でない作業にも追われているという。ただ、コロナはIT(情報技術)を活用した働き方改革のきっかけにもなる。既に各校でオンライン授業に向けたインフラ整備や遠隔会議が広がっている。これを機に家庭と両立しやすい職場を整備できるだろう。
 当然、学校にはオンライン授業で得られない学びがある。ITを使えば何ができて、反対に何ができないのか。本当に子供たちのためになる学校とは何か。今までただ慣習的にこなしてきた業務を見直す局面にあるのかもしれない。(渡辺夏奈)

地銀、テレワーク導入広がる 新型コロナきっかけ

みなと銀行が開設するサテライトオフィス(神戸市内)

みなと銀行が開設するサテライトオフィス(神戸市内)

地銀でテレワークできる体制づくりが進んでいる。新型コロナウイルスの感染再拡大が続くなか、在宅勤務制度の導入やサテライトオフィスの開設で行員の密集を避ける狙いだ。新型コロナをきっかけに、地銀も新しい働き方への取り組みに踏み出している。

山梨中央銀行は7月、在宅勤務を正式な制度に切り替えた。感染が全国に広がり始めた3月から試行し、約4カ月間で延べ1600人超が利用していた。在宅勤務者には専用のタブレット端末を貸与し、銀行のサーバーに接続して業務を行う。端末へのデータ保存や自宅での印刷はできないが、行内資料の作成や分析作業などができる。

行員からは「通勤時間がかからず、効率化した」「環境を変えることで新しい発想につながった」などの声が寄せられている。正式導入後の利用者数は延べ300人程度。感染防止対策のため、業務上の指示で在宅勤務するケースが大半だが、育児や個人的な事情で在宅勤務を利用する行員もいる。「多様な働き方のために活用してもらうことが制度の趣旨に沿う」(同行経営企画部)。行員がライフスタイルにあった働き方を選ぶことにつながれば、離職率を低下させる効果も生まれると期待している。

荘内銀行と北都銀行を傘下に持つフィデアホールディングス(HD)も8月、在宅勤務の対象を全従業員に広げた。これまでは管理職のみだったが、行員やパート約2600人を対象にした。報告資料や融資業務関連書類、顧客向け提案書の作成などの業務を自宅でできる。会社が貸し出す端末機器を使って業務する。在宅勤務するかはそれぞれの現場で所属長が労働時間を管理しながら判断する。

9月からサテライトオフィスの本格運用を始めるのはみなと銀行だ。神戸市や兵庫県明石市にある支店や関連施設の3拠点に同オフィスを置く。本部行員の1割弱にあたり、中小企業向け融資を担う部門などの約40人が利用する。

3拠点とも本店のある神戸市中心部から20~30分程度の距離に位置する。本店での密集を避けつつ、分散勤務できる態勢を整える。同オフィスには内線電話や行内のネットワークにつなげるパソコンなどを用意する。飛沫防止用の間仕切りも各席に設ける。

(内藤英明氏、田村匠氏、沖永翔也氏)