投稿者: 瑚心すくい

熱意や好意は逆効果 転職先はあなたの価値を見ている

写真はイメージ =PIXTA

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コロナショックを背景に、転職者が増えている実感があります。今の会社にいても先行きが怪しいから、ということですが、だからといって基本がないがしろになってはいけません。転職者を受け入れる側は、今まで以上に厳しい視点を持っています。

今までの会社の当たり前がそうではないことを知る転職

「今の会社にいても先行きが不透明なので、初めて転職を考えています」

そんな求職者が増えていると、人材紹介会社の知人から聞くようになりました。以前の記事「コロナショックの先 4つの給与クライシスが始まる」でも書いたように、残業削減、昇格延期、昇給延期、賞与減額などが進んでいます。あわせて読みたい結果は上司にどう見える リモートワークの生かし方出世のカギは両利きのキャリア 新たな探索に踏み出せ

厳しい会社の状況を踏まえ、少しでも将来性のある業界や会社に転職しようとすることは当然の判断です。

一方で、多くの日本企業はメンバーシップ型と言われるように、一度就社すると定年までそこで過ごすことを当然と考える人たちで構成されています。転職があたりまえになりつつあるといっても、大半の人にとって転職は一大事であり、なるべくならしたくない、と思うものかもしれません。

しかし今回のコロナショックでは、そんな人たちも改めて転職を考えるようになっています。

さて、彼ら、彼女らは転職活動を通じて、人生ではじめて他の会社を知るわけですが、そこで大きな驚きと感動を受けているようです。それまであたりまえだと思っていた会社の常識が、世の中の非常識であったことを知っています。

たとえば「残業は当然」と思っていたら、世の中では残業がない会社も増えているという事実。

「会社には定時がある」と思っていたら、フレックス制度を入れている会社では出社がばらばらなこともある、とか。

「有給休暇はなるべくとらない」とか「会議では偉い人から発言する」とか「ハンコは少し傾けて押す」とか「朝礼があるのはあたりまえ」とか。

それらは会社ごとに違って当然なのですが、今までいた会社を当たり前、と思っていた人たちにとってはとても新鮮に映るようです。

ただし面接の場で目を輝かせてしまうと、その会社から不合格の通知が届く可能性が高まります。

自分の損得のための転職だと言ってしまっていないか

「ぜひ御社で働かせてください。こんな素晴らしい会社があるなんて知りませんでした」

そう熱弁すればするほど、その求職者が合格する確率は下がってゆきます。

理由はなぜか。

結論を一言で示すなら、それは主語が自分になってしまっているからです。私にとって御社は価値がある、ということを言っているだけなのです。

コロナショックのように大きな変化があると、どうしても人は不安を感じやすくなります。そして身を守るために新しい行動をとることになります。

その際にはもちろん「自分」あるいは近しい人を守るために行動します。それが転職活動となり、新しく活躍できる場を探すきっかけになるわけです。

たとえばこれまではメーカーで営業職として勤務していたとします。しかしコロナショックによって新規営業先が激減し、個人としての業績が悪化したので評価が下がりました。また営業のための見込み先そのものが減ったのと、見込み先への物理的な営業訪問がなくなったので、残業時間が減り、給与の手取りが減りました。評価が下がった結果は夏の賞与減に反映され、さらに会社全体の業績悪化により、冬の賞与は昨年対比で8割減少という話が流れてきています。こんな状況では、年次的に来年なるはずだった係長昇進もなくなる可能性が高まっています。今年の年収はすでに昨年対比でかなり下がり、来年はそれよりも下がる可能性が高いと見込まれ、家族との話も暗くなってしまいました。

自分の生活を守るため、あるいは家族の生活を守るため、これまで想像もしていなかった転職活動に飛び込む決意がようやく生まれます。

さて、そうして転職活動をしてみると、意外にコロナショックの中でも伸びているという会社があります。具体的に話を聞くほどに、先行き暗い今の会社を離れて移りたい、という思いが高まります。やがて「ぜひ御社で!」となるわけですが、その会社の経営者は何を考えているでしょう。

転職先に価値をもたらせるか

「なるほど、今の会社の将来性に不安がある、というのは確かに理解できる」

「うちの会社を知るほど目が輝くのを見ていると、うちの組織作りが褒められているようでうれしい」

「たしかに彼はうちに来た方が幸せになるだろう」

「で、うちはこの人を雇ったらどんな得をするんだろう?」

熱意や好意は、面接官となる人たち、とりわけ経営者に対して良い印象を与えます。しかしコロナショックの中で業績を伸ばしている会社の中には、単にコロナが順風になった会社だけでなく、厳しい環境変化をシビアに見据えるか、あるいはあらかじめ何らかの手を打っていた先見性のある会社も含まれています。

そういう会社の経営者は、単純な好意にほだされたりはしません。

あくまでも冷静に、今目の前にいる求職者を品定めします。

そしてその視点は、この人を雇ったらどんな活躍をしてくれるだろう。その結果、会社の業績にどんな良い影響があるだろう。成果はどれくらいの期間にどれくらい生まれるだろう、といった経営の視点からのものに他なりません。

そんな経営者に対し熱意と好意だけを示しても逆効果です。熱意や好意ならむしろ新卒を雇った方がまだましだ、と思う場合すらあるのです。

中途での転職を目指すのなら、コロナショックのタイミングであるかどうかにかかわらず、転職先にどのような価値を提供できるかを示せなくてはいけません。

売り手市場から買い手市場に大きく風向きが変わった今、価値を求められる度合いは今後さらに高まってゆくのですから。平康慶浩

セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。グロービス経営大学院准教授。人事コンサルタント協会理事。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで180社以上の人事評価制度改革に携わる。

日本IBM系新会社 数千人のITプロ率いるのは30代社長

日本IBM デジタルサービス社長の井上裕美氏。2003年日本IBMに入社。19年、ガバメント・デリバリー・リーダー、20年日本IBMグローバル・ビジネス・サービシーズのガバメント・インダストリー理事に就任。20年7月より現職。保育園児と小学生の2人の娘の母でもある

日本IBM デジタルサービス社長の井上裕美氏。2003年日本IBMに入社。19年、ガバメント・デリバリー・リーダー、20年日本IBMグローバル・ビジネス・サービシーズのガバメント・インダストリー理事に就任。20年7月より現職。保育園児と小学生の2人の娘の母でもある

日経クロストレンド

コロナ禍の2020年7月1日、日本IBMは静かに大きな一歩を踏み出した。日本IBMサービス(ISC-J)、日本IBMソリューション・サービス(ISOL)、日本IBMビズインテック(IBIT)の3子会社を合併、日本IBM デジタルサービス(以下、IJDS)を設立した。

それぞれが製造業や金融業に特化することで、知見やスキル、アセットなどを蓄積してきた各子会社。これらが融合することで、顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる、情報技術(IT)のプロフェッショナル集団が誕生することになる。

数千人もの規模となるIT専門家集団の新会社を束ねるのが、39歳の井上裕美氏だ。現在、小学生と保育園児を持つ2児の母でもある井上氏は、システムエンジニアとして日本IBMに入社。主に官公庁を担当し、11年には官公庁デリバリー部長に就任。それ以降も官公庁、自治体、教育関連などのプロジェクトで、プロジェクトマネジャーやプロジェクトオーナーとして、大規模な社会インフラの変革などをまとめ上げてきた。大抜てきにも見えるが、着々と実績を積み上げてきた必然の人事だと言える。

コロナ禍で日本企業のDXは急速に進んだ。というより強制的にデジタル化へのシフトを迫られた。コロナ禍で「どんなメソッドでどんなツールを使えば、お客様は良い成功体験を迎えられるのか、本気で話す機会が増えたように思う」(井上氏)。例えば、リモートワークの必要性。緊急事態宣言でリモートワークが推奨される中、「リモートに移行できない」とはなから諦めるのではなく、リモートにするのであればどのツールやメソッド、方法論でやるのか、これらを真剣に考え、かついち早く決断しトライアンドエラーを繰り返す。こういったスピードが一気に加速したという。

新会社の強みは、「社会インフラとなる基幹系システムと先進テクノロジーの両輪で、DXを支援する仕組みがあること」だと話す井上氏。では、DXを顧客に提供する側のIJDSは、社内でどのような取り組みを実践しているのか。オンライン上で円滑なコミュニケーションを図るために、意識的に行っていることが3つあるという。

■「一口DX」で情報共有

1つ目は、100%顔を出して話すこと。複数名が参加するオンライン会議であっても、顔出しせず音声だけで行っている企業もあるだろう。「(オンラインでは)相手が理解しているのか、共感しているのかが分かりづらい」(井上氏)ため、必ずカメラをオンにして会議に臨むという。

2つ目は、感謝をきちんと言葉や文字にすること。平時、出社が当たり前だったころは「背中で語る」という文化があったが、背中を見せられなくなった。そこでオンラインツールを駆使して、感謝を伝えられる仕組みを整えているという。「コロナ前からツール自体はあったが、使おうという機運が一層加速した」(井上氏)

この仕組みは、「ブルーポイント」と呼ばれている。例えば何かしらシステムトラブルが起きたとき、復旧するのに時間と労力がかかるにもかかわらず、復旧に関わった人はあまり知られない。そういったことが当たり前の世界観にならないように、復旧に携わった人に対して「現場の人が一番大変だったよね。お疲れさま。本当にありがとう」という感謝のコメントや、どう復旧させたのか知見を共有する場を設けている。

「うれしかったのは、IJDS内ではおめでとう、ありがとうのコメントが毎度続くが、IBMグループ全社からも見ることができるので、本社のシステム管理部や営業部からも声が届くこと。まさに『枠を超えた』という瞬間。あくまでツールでしかないが、見える化が加速できるのはオンラインならではの事象」と井上氏は胸を張る。

3つ目は、「一口DX」。DXにまつわるニュースやトピックをデジタル事業部のメンバーが拾い上げて、1本のトピック当たり5~10秒程度で読めるよう要約し、チャットサービスの「スラック」で発信しているという。新聞や雑誌などを見ずとも、最低限大事なDXトピックはここでチェックできるというわけだ。

その他にもスラック内で、情報共有が全社規模で活発に行われている。業界チャネルでは今日のニュースが発信され、「テクニカルな面でこのツールは良かった」「この技術ってどうでしょうか?」といった投稿があり、知らない部署の社員が返事をくれる場合もあるという。

オンラインが主流になって、人と人とのリアルな関係性が失われたと言われている。だがIJDSでは、むしろDXを生かすことで、今まではつながらなかった社員同士の距離が近づいている。

コロナ禍で会社立ち上げのときから、オンラインで社員とコミュニケーションを図る

コロナ禍で会社立ち上げのときから、オンラインで社員とコミュニケーションを図る

これらの施策はすべてトライアンドエラーを短期間で繰り返して完成させたものだ。「さまざまな施策をする際、多くの社員と直接コミュニケーションを取ってフィードバックを聞く」(井上氏)という。

例えば一口DXは、もともとはすべてのトピックを読むのに30分程度かかるものだった。業務やプライベートなど限られた時間の中で皆が目を通すのは難しいと考え、今の1本当たり5秒という形になったという。最近では毎日の発信で情報が多すぎるという声も届いているため、金曜の夕方に今週のまとめを一覧で送付している。

これは日本IBMにフィードバック文化が根付いている結果だ。「外資系であることも大きいと思うが、日米ともに『何も発信しないと物事は変わらない』ということを社員が分かっている。無になる、サイレントは貢献していないのと一緒という考えがある」と井上氏は語る。

■「ワンチーム」で理想のリーダーに

ビジネスパーソンと母親の二足のわらじを履く井上氏を支えてきたのは、社内のメンター制度だ。仕事のキャリアだけでなく、プライベートの相談や仕事との両立など、評価に関わる利害関係のない相手だからこそ込み入って話すことができるという。

井上氏の最初のメンター(助言者)は、現日本IBM社長の山口明夫氏だった。「山口とは10年以上前からメンターとして関わってもらっているが、基本的に前向きで明るいという軸はどのポジションにいても変わっていない。やってみなよ、それいいじゃんと、背中をポンッと押してくれる。自分にとっては、どのタイミングで相談しても前向きになれる」と信頼を寄せている。希望すれば複数人をメンターとすることができ、井上氏は男女、グローバル関係なくさまざまなメンターと関わり、それぞれのリーダーのいいとこ取りをして、理想のリーダー像を確立したという。

現在は自分がメンターとなる立場にもある井上氏。「日本人だけでなく、むしろグローバルの若手社員からメンターをお願いされることが多い」(井上氏)と20代、30代の良き見本となっている。

「お母さん」の役割も犠牲にすることなく、仕事も全力で取り組む井上氏

「お母さん」の役割も犠牲にすることなく、仕事も全力で取り組む井上氏

そんな井上氏のリーダー論は「ワンチーム」。20代のころは「自分がやったほうが早いと思い、時間の効率性も考えず、最大限時間を使ってチームをまとめてきた」(井上氏)。しかし大きな組織でのリーダーを任せられると、仕事も必然的に大きくなり、リーダー1人だけではなし得なくなってくる。

ちょうどそのころ、第1子の出産も重なる。「時間や生産性との葛藤、自分はもっとできるのにと思い、甲斐がなくなってきていた」(井上氏)。もともとシステムエンジニアとして入社し、現場に長い間いた分、現場のことは全部自分でやりたいと、もがき、気張りすぎていたと当時を振り返る。

そんな中、ある顧客から「井上さんは肩の力が入りすぎている。チームなんだからリレーション。委任する部分は委任して、仕事はチーム全員でなし得るもの」と、直接フィードバックをもらった。それまでメンバーからもリレーションしてください、と言われていたが、何となく悪い気がしていたという。このフィードバックをもらったことをきっかけに、託すものは託す、時間的に無理なものは無理と言うことをやっていった。例えば、深夜の対応などは赤ちゃんがいるので断った。

結果、いろんな形でチームを巻き込んで、ワンチームでやり終えたときのほうが、顧客からの評価は良かったという。「お母さんになってからのほうがすごくいいね、と言われた(笑)。母親になって、時間は圧倒的になくなったが、『このリーダーがいい』と信頼あるお客様に言われたのは大きかった」(井上氏)

■完全「オンライン」で会社設立

そんな井上氏が率いる新会社はコロナ禍の中、実は完全に「オンライン」で生まれた。「税務も人事も、オンラインで協力し合って、コロナを理由に少し後ろにずらすこともなく、当初の予定通りデジタルを駆使して立ち上げることができた。最初から100%オンラインで立ち上げる、と決めていたので、関係者全員が同じ方向を向いてやれたかなと思う」

まさにニューノーマル(新常態)の船出といえるが、心残りなのはまだ社員とリアルに会えていないことだという。ただ、オンラインならではの良さも実感している。

合併前の3社には北海道から沖縄まで、日本全国に事業所がたくさんある。これまで全国の事業所間での会議では、東京近郊の社員がリアルで集い、遠方の事業所の社員はオンラインで入る、というのが一般的だった。「リアル会議+オンライン参加の形だと、どうしてもリアルの場が盛り上がってしまって、オンラインの参加者には話を振ってコメントをお願いする、という形になりがちだった。全員がオンラインになったことで、機会が均等になり、発言できる距離感が皆同じになった」(井上氏)

「もちろん早く直接会いたいですが」と笑う井上氏。そのときが来たら、IJDSの結束はますます強固なものになる。

(日経クロストレンド 松野紗梨、写真 志田彩香)

転職エージェント使うなら 大手・中小を上手に併用

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

頼れるエージェントとの出会いは転職成功につながりやすい(写真はイメージ) =PIXTA

今回は、「転職エージェント」の裏話をお話ししましょう。結論から先にお伝えしますと、転職活動にあたって転職エージェントを利用するなら、「大手総合エージェント」と「中小エージェント」を併用するのが得策というお話です。

その背景には、「ジョブハンティング」という動きの活発化があります。これからの時代、転職エージェントをどう活用すればチャンスを広げられるかについてご紹介します。

まず、従来の転職エージェントの活動とは、次のようなものです。

<対・求人企業>

クライアント企業から求人依頼を受けたら、自社に登録している転職希望者の中からマッチしている人材を探して紹介する。マッチする人材がいなければ、新たにマッチする人材が登録したときに紹介する。

中小エージェントや大手エージェントの一部(例:ハイキャリア層担当)などの場合、自社登録者の中にマッチする人材がいない場合、大手求人サイトの「スカウトサービス」登録者リスト、「ビズリーチ」「LinkedIn(リンクトイン)」などへ探しに行き、声をかける。

<対・転職相談者>

転職希望者から相談を受けたら、依頼されている求人の中からマッチする求人を紹介する。マッチする求人がなければ、「今はご紹介できる求人がありません。出てきたらお声がけします」と伝える。

では、最近の転職エージェントの動きはどう変わってきているのでしょう。

転職希望者から相談を受けたら、出ている求人(顕在求人)の中からマッチするものを探すだけでなく、「潜在求人」を探しに行くようになっています。

つまり、転職希望者から経験・スキル、志向や価値観を聞き、「この人の強みはどんなポジションで生かせるだろう」と想像し、「この会社なら、この人を欲しがるのではないだろうか」と考えた会社に対し「こういう人材がいますが、会ってみませんか?」と提案しに行くのです。もちろん、転職希望者本人の承諾を得た上で、です。これを「ジョブハンティング」といいます。

「求人ありき」から「転職希望者ありき」へ

転職エージェントがこのような活動にシフトしている背景には、「採用システムの進化」と「人材戦略の変化のスピードの加速」があります。

近年、恒常的に採用を行っている企業の多くは「ATS」というシステムを導入しています。これは「Applicant Tracking System」の略で、「採用管理システム」「採用支援システム」を指します。採用に関わる業務プロセスを一元管理することで、効率的な採用活動ができるシステムです。

この中には「エージェントへの求人依頼」を管理する機能が含まれています。

以前は、エージェントに求人を依頼する際、取引先のエージェント一社一社に求める人材要件を伝え、途中で要件が変わったり、募集をストップしたりする場合、それをエージェント一社一社に連絡しなければなりませんでした。

しかし、ATS導入によって、この手間が大幅に省かれました。求人企業はATS上に求める人材要件、その変更事項などを1度入力しておけば、取引先のエージェントはそこにアクセスすることで最新情報を入手できるのです。

ですから、求人企業としては取引先エージェントとのやりとりの工数が省けた分、紹介ルートを広げるために、中には数十社の転職エージェントに情報公開しているケースもあります。

中小エージェントが「ジョブハンティング」に注力する理由

では、ATSの登場で、転職エージェントはなぜ動きを変えたのか。そこには「企業側の求人ニーズの変化をキャッチアップしきれない」という問題があります。

昨今、ビジネス環境の変化のスピードが速く、企業の組織・採用戦略、人材ニーズも刻一刻と変わっています。特にコロナ禍によって、企業は事業面でも組織体制面でも、急激な変化を強いられている状況。求人ニーズの変化のスピードがさらに速くなっています。転職エージェントとしては、企業側の求人の動きを追いきれなくなっているのです。

そこで、中小エージェントでは「求人ありき」から「転職希望者ありき」に転換。その人にふさわしい「潜在求人」を探しに行く「ジョブハンティング」に力を入れるようになったというわけです。

それに、中小エージェントの場合、求人企業の経営者・経営陣のカウンターパートとして、いち早く経営戦略・事業戦略、それに伴う組織課題を聞いています。つまり、人事サイドで「求人」として顕在化する前段階で、「潜在的な人材ニーズ」をある程度キャッチできているのが強み。「転職希望者ありき」にシフトした場合も、頭にインプットされている「潜在求人」とマッチングしやすいのです。

場合によっては“卵が先か鶏が先か”理論で、人ありきで事業戦略が大きく前進することもあるので、企業側も人材の提案は歓迎します。

企業の「潜在ニーズ」「未来ニーズ」を予測

私が経営するmorichの場合、幸いにして優秀なエンジニアのサポートを受け、取引先企業の求人の最新情報をいち早く取り込める体制を整えました。それでも、「求職者ありき」でジョブハンティングをする割合が半分ぐらいに増えています。

多くの企業の経営者から直接「ミッション・ビジョン・バリュー」、そして、組織課題・組織戦略を聞いて理解しているので、転職希望者の方の経験や価値観をお聞きすると、いずれかの会社が頭に思い浮かびます。

その会社が人材募集をしていなくても、「この人なら、御社の今後のビジョンに向けて推進役を担えるのでは」「〇〇社長とのケミストリーがありそう」と提案すると、ポジションを新たに用意して迎えていただけることも数多くあります。

例えば、30代の事業開発職・Aさんから相談を受けたケースです。AさんはあるIT企業で海外事業の立ち上げを担当していましたが、会社の方針変更で撤退が決まってしまいました。別の事業部に異動したものの、消化不良の状態に。「海外事業へのチャレンジを成功させたい」という思いを強め、転職を検討していました。

Aさんの話を聞いて浮かんだのが、ITベンチャー・B社です。国内で事業展開していたB社ですが、プロダクトの特性上、海外マーケットへの進出もあり得ると想像できました。社長は海外留学経験もあり、きっと海外志向もあるのではないかと思われました。

そこでAさんの承諾を得てB社にお声がけしたところ、「まさに来年度から海外事業の展開を考えていた」とのこと。Aさんはそのプロジェクトリーダーとして採用されました。

今後は、あらゆる中小エージェントでこうした「ジョブハンティング」のスタイルが定着し、スタンダードになっていくのではないかと予測しています。

プロアスリートのエージェントの場合は、もともとこういうスタイルですね。そのアスリートの経験・能力が生かせて、やりたいことを実現できるチームを探して、入団交渉を代行する。ビジネスパーソンの転職においても、そんなスタイルになっていくのではないでしょうか。

大手と中小、それぞれのエージェントのメリットを活用しよう

ちなみに、大手総合エージェントの場合、こうした動きはなかなか難しいと思います。中小エージェントでは、1人が企業側・求職者側双方とコミュニケーションをとりますが、大手では、企業と折衝する営業と、転職希望者の相談に応じるアドバイザーの役割が明確に分かれているからです(一部、ハイキャリア層担当部門では例外もありますが……)。

そもそも大手では、求人情報管理システムが充実していたり、営業担当が企業ニーズをこまめにフォローしていたりするので、ジョブハンティングに力を入れる必要もあまりないともいえます。とはいえ、大手エージェントには、膨大な量の求人が集まってきています。網羅的に自分にマッチした案件をサーチするなら大手にも登録してみるのも手です。

ですから、転職活動をするなら、大手エージェントと中小エージェントの両方を併用することをお勧めします。

●「顕在求人」の網羅性が高い大手エージェントを利用すると、より多くの求人情報を得られ、選択肢が広がる。

●「潜在求人」のサーチに力を入れている中小エージェントを利用すると、本当に自分にマッチした1社に出会える可能性がある。

このように、それぞれのメリットを活用し、チャンスを広げていただきたいと思います。

「ジョブハンティング」のサービスが多様化

「求職者ファースト」「ジョブハンティング」というスタイルをさらにアレンジした転職エージェントも登場しています。エージェント側から企業を紹介せず、転職希望者自身が志望企業を決め、エージェントに持ち込むというスタイルです。

例えば、HRテクノロジーズが運営する「バクテン」では、転職希望者が転職先の候補企業を最大5社まで持ち込み、転職のプロがその会社に採用されるための支援――例えば職務経歴書のブラッシュアップや面接対策などのアドバイスを行います。

そして「バクテン」から企業へ紹介。面接を経て入社に至ったら、50万円もしくは100万円のキャリアアップ支援金をキャッシュバックするというサービスです。キャリアパスが多様化する時代、こうした「ジョブハンティング」は、様々なスタイルで広がっていくのではないでしょうか。

「ジョブハンティング」による転職活動を成功させるためには、自身の強み、志向をしっかりと見つめ、言語化して伝えられるようにすることが大切です。「こんな経験をして、こんな成果を挙げた」だけで終わらせず、自分は他者に比べてどんな力に長(た)けているのか、企業にどう貢献できるのか、自分の仕事によってどんな世界を実現したいのか、どんなキャリアを歩んでいきたいのか。それらをしっかり整理したうえでエージェントに相談すれば、より自分にマッチする1社に出会える可能性が高まるでしょう。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊『マンガでわかる 成功する転職』(池田書店)、『トップコンサルタントが教える 無敵の転職』(新星出版社)ほか、著書多数。

富士通とNECが脱「紺屋の白袴」 DX率先できるか

日経クロステック

他者を変えたければまず自分から――。富士通NECが「脱・紺屋(こうや)の白袴(しろばかま)」ともいえるプロジェクトに挑んでいる。全社の基幹システムを刷新し、データに基づき迅速な経営判断を下せる体制を整える。バラバラな構成だった世界のグループ企業の基幹システムを独SAP製統合基幹業務システム(ERP)パッケージで統一。業務プロセスも標準化し、経営とIT(情報技術)を一体化させた理想的な姿を目指す。

両社は顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援を事業の柱にすると表明済み。率先してDXを進め、自らを顧客向けのショーケースにする考えだ。

■富士通、世界統一システムへ

富士通が進めているのが「One ERPプロジェクト」だ。SAPや米オラクル製のERPパッケージ、独自開発アプリケーションなどバラバラな構成の基幹システムを、SAPの「S/4HANA(エスフォーハナ)」に統一する。

「グループ社員13万人、売上高4兆円規模の日本企業として最大のSAP導入事例になる」。同プロジェクトを率いる福田譲執行役員常務は、こう説明する。福田氏は時田隆仁社長に請われ、SAPジャパン社長から富士通に転じた。顧客企業のSAP導入を支援してきた立場から、ど真ん中の当事者として導入を推進する。

同プロジェクトの総投資額は非公表だが、「一般論としては500億~600億円かかる」(福田執行役員常務)。2023年4月をメドに日本の本社向けシステムを稼働させる方針だ。

規模だけでなく難度も「極大」(同)という。目指すのはグローバル・シングルインスタンス、すなわち世界の富士通グループ全体で単一のシステムを導入する。日本の富士通本体にグローバル標準のシステムを導入し、世界の各拠点は同システムをクラウド経由で利用する、といった形態が一案だ。拠点ごとのカスタマイズは、原則として認めない。

富士通はERP導入と表裏一体で社内の業務改革プロジェクトも進めている。「フジトラ・プロジェクト」と名付け、20年7月に始動した。

「19年に社長に就任した際、IT企業からDX企業へ変わると宣言した。DXはデジタル技術を適用すれば成し遂げられるものではない。業務プロセスや企業風土など、企業や団体の体質そのものを変える必要がある。顧客や社会のDXを推進すべく、富士通自身のDXに取り組んでいる」。時田社長は改革の狙いをこう述べた。時田社長は自ら最高DX責任者(CDXO)を名乗り改革の陣頭指揮を執る。

富士通の時田隆仁社長

富士通の時田隆仁社長

フジトラ・プロジェクトの推進体制として現場の事業部門から「DX Officer(オフィサー)」、CEO室に「DX Designer(デザイナー)」と呼ぶ担当者をそれぞれ設けた。「部門同士の横の連携をDX Officerが担い、経営と現場の縦の組織をDX Designerがつなぐ」(福田執行役員常務)。

■NEC、社内外のデータ活用基盤整備へ

NECは同社グループの基幹システムを従来の「SAP ECC 6.0」からS/4HANAへ刷新するプロジェクトを進めている。同時にデータ分析・活用システムも構築する。21年度中にNEC本社向けのシステムを稼働させる。既にシンガポールやタイ、オーストラリアなど海外10カ国14拠点で稼働済みだ。

同社は10年から国内外のグループ会社にSAPのERPパッケージを導入し、販売や経理、購買といった業務プロセスの標準化を進めてきた。自社の基幹系データに加え、顧客データやインターネット上のSNS(交流サイト)投稿データなど社内外の様々なデータを分析、活用できるようにするため、全面刷新を決めた。

「経営と業務、ITを一体にした改革こそ目標であり、ERPパッケージは手段にすぎない」。富士通とNECはともにこう強調する。

両社は経営戦略から組織運営、人事や会計の制度・ルール、業績やマスターといったデータ、業務プロセス、アプリケーション、ITインフラまで全てをグローバルで標準化する。IT企業が掲げる最も理想的なプロジェクトを率先垂範する考えだ。理想的であるものの、その分だけ難度も高い。

両社が目指す姿はパッケージソフトを提供する企業などとともに顧客企業へ売り込んできたものだ。では、これまでどの程度実践できていたのか。新たな事業の柱と位置付けるDX支援とは、まさにIT導入にとどまらず業務そのものを変える取り組みにほかならない。DX支援の担い手を名乗る以上、自分たちすら変えられなければ顧客の変革はおぼつかないだろう。

(日経クロステック/日経コンピュータ 玉置亮太氏)

NTTコム1万4000人の在宅勤務支えるゼロトラスト

テレワークするNTTコミュニケーションズの従業員(出所:NTTコミュニケーションズ)

テレワークするNTTコミュニケーションズの従業員(出所:NTTコミュニケーションズ)

日経クロステック

新型コロナウイルスの感染が拡大した4月以降、NTTコミュニケーションズでは約6000人の社員に契約社員や協力会社の従業員も含めた最大1万4000人が在宅勤務を継続している。それを支えているのが、VPN(仮想私設網)やVDI(仮想デスクトップ環境)への過度の依存を排した「ゼロトラスト(信用しない)」型のテレワーク環境だ。

NTTコムが新しいテレワーク環境を構築したのは2018年のこと。それまでも同社は、データをサーバーで保存するシンクライアント端末を使うテレワーク環境を従業員に提供していたが、使い勝手が悪いという大きな問題点を抱えていた。

従来のテレワーク環境においては、従業員はオフィスの外で業務をする場合、必ずシンクライアント端末を使用し、VPN経由で社内にあるVDIにアクセスし、仮想デスクトップを使ってオフィスソフトウエアや社内の業務アプリケーションを使用していた。

スマートフォンを使って業務する場合もVPN機能を搭載した「セキュアブラウザー」という仕組みを使わせ、必ずVPNを経由させていたほか、端末へのデータのダウンロードなども禁止していた。

こうした仕組みの問題点は、使い勝手が悪かったことだ。例えば電子メールを確認する場合でも、シンクライアント端末では端末を起動してVPNに接続し、仮想デスクトップでメールソフトを立ち上げてメールを確認するまでに7~8分かかっていた。スマホの場合も、セキュアブラウザーを使ってVPN接続などを済ます必要があるため、メールを確認するまでに40秒を要していた。

■データ保存できる端末持ちだし可能に

使い勝手の悪いテレワーク環境は従業員の生産性を落とす――。そう考えて18年に構築した新たなテレワーク環境では、従業員がオフィス外にノートパソコンやスマホを持ち出して、端末にデータを保存し、端末上でアプリケーションを動かして業務ができるようにした。いわゆる「FAT(ファット)端末」を社外でも利用できるようにしたのだ。

NTTコミュニケーションズにおけるテレワーク環境の変化

NTTコミュニケーションズにおけるテレワーク環境の変化

NTTコムは従業員がパソコンやスマホを社外に持ち出せるようにするために、デバイス保護やアプリケーション管理、ファイル暗号化などのツールを導入し、端末をサイバー攻撃から守る包括的な対策を施した。

従来は、インターネットと社内ネットワークとの境界にVPN機器を設置するなどの対策を施した境界型セキュリティーで守られた社内でなければFAT端末が利用できなかった。それを、境界型ではないセキュリティー対策を導入することでどのようなネットワークにあってもFAT端末が利用できるという、ゼロトラスト型のやり方に切り替えたわけである。

具体的には、まずデバイスの保護に「EDR(エンドポイント検知・対応)」と呼ぶツールである米マイクロソフトの「Microsoft Defender Advanced Threat Protection(マイクロソフト・ディフェンダー・アドバンスド・スレット・プロテクション、ATP)」を採用した。国内外でセキュリティー事業を展開するグループ企業のNTTセキュリティと連携しながら、デバイスへの攻撃をいち早く検知し対策を講じる体制を整備した。

Windowsパソコンに関しては「TPMセキュリティーチップ」を使った暗号化機能である「BitLocker(ビットロッカー)」や、生体認証の「Windows Hello(ウィンドウズハロー)」も利用している。

また、モバイルデバイス管理/モバイルアプリケーション管理(MDM/MAM)ツール「Microsoft Intune(インチューン)」によって、デバイスの利用をアプリケーション単位で細かく制御している。例えばスマホの利用は「会社領域」と「個人領域」に仮想的に分割。業務で利用するクラウド経由のアプリ(SaaS=サース)は会社領域でなければ利用できず、会社領域のアプリのデータを個人領域に持ち出せないようにしてある。

このほか外部に機密ファイルが漏洩する事態を想定し、データを自動的に暗号化する「Azure(アジュール)RMS」も利用している。

■「VPN渋滞」を回避

NTTコムがテレワーク環境をシンクライアント端末からFAT端末に移行した背景には、17年5月全面施行の改正個人情報保護法に伴う情報漏洩の扱いに関する国の方針の変更があった。

新しい指針においては、高度な暗号化などの秘匿化が情報に対して施されている場合であれば、その情報を保存した端末を紛失したような場合であっても、情報そのものは外部に漏洩していないとみなされるようになった。シンクライアント端末を使う必要がなくなったため、使い勝手の良いFAT端末に切り替えたわけだ。

テレワーク環境を快適に利用する仕組みも取り入れた。多くの企業ではインターネットへの出口をデータセンターのファイアウオールなどに限定しているが、そこにSaaS向けの通信が集中することでボトルネックになる、いわゆる「VPN渋滞」と呼ばれる事態が生じがちだ。

NTTコムはデバイスからの通信経路を自動的に切り替える技術「スプリットトンネリング」を採用。SaaSについてはインターネット経由で直接利用する。オンプレミス(自社サーバー)の業務システムを利用する際は、SSL暗号通信を行うSSL-VPNに自動的に切り替えて社内に接続する仕組みにして、VPN渋滞を回避している。

同社はこのようにデバイスからアプリケーション、データまできめ細かく制御するテレワーク環境を構築していたことで、新型コロナ禍でも大規模な在宅勤務スムーズに移行できた。

人けの無くなったNTTコミュニケーションズのオフィス(出所:NTTコミュニケーションズ)

人けの無くなったNTTコミュニケーションズのオフィス(出所:NTTコミュニケーションズ)

使い勝手も大きく向上した。シンクライアント端末時代は端末を起動してからメールを確認するために7~8分かかっていたのが、新しいFAT端末ではその時間が1分にまで短縮した。スマホでのメール確認までにかかる時間も、セキュアブラウザーを使っていた従来の環境では40秒かかっていたのが、10秒にまで短縮した。

さらに現在は、テレワーク環境の構築・運用で培ってきたゼロトラストネットワークを社内の隅々まで行き渡らせようとしている。背景にあるのが5月に発覚したサイバー攻撃の被害だ。

■サイバー攻撃被害で対策徹底へ

同社は5月28日、法人向けクラウドサービスの運用サーバーなど自社設備に対する不正アクセスで顧客情報が外部に流出した恐れがあると発表。7月2日には社員になりすました攻撃者による別のサイバー攻撃も受けていたと公表した。

「反省すべきは『社内なら安全』との考え方を残していたこと。ゼロトラストの観点に立って対策を急がなければならない」と、NTTコムの久野誠史デジタル改革推進部情報システム部門担当部長は話す。

実は最初に攻撃者の侵入を許したのは撤去予定だったサーバーで、EDRによる防御の対象ではなかったという。またNTTコムは全社の認証基盤に「Azure Active Directory(アジュール・アクティブ・ディレクトリー)」を利用してIDを一元的に管理しているが、今回攻撃を受けたシステムでは、それが徹底できていなかった。

目下、NTTコムは足元の対策から中長期的な対策まで幅広い再発防止策を進めている。まずはEDRの全社展開を急いでおり、ファイルの利用権をきめ細かく管理する「Azure Information Protection(アジュール・インフォメーション・プロテクション、AIP)」も20年内に本格導入する方針だ。AIPは暗号化されたファイルを開くたびにIDを認証するツールで、ファイル配布後に利用権を取り消したり、どの場所からアクセスされたかを確認したりできる。

また、社内から業務システムにアクセスする際は常に多要素認証を使うことを検討している。オンプレミスの業務システムを段階的に縮小してSaaSに移行させる取り組みも、これまで以上に強化するという。

今回のサイバー攻撃はNTTコム社内の「ゼロトラストネットワークになっていない」範囲を弱点として突いたものとみなせる。言い換えれば、ゼロトラスト型の対策が現代のサイバー攻撃への備えとしてますます重要になっている、ということでもある。

(日経クロステック/日経コンピュータ 高槻芳氏)

ビジネスの成否は優先順位の見極め、試される決断力

意思決定はジレンマとの戦い

私が経営スタッフだった頃、役員会にかける提案の資料づくりをよくやらされました。どこから突っつかれても説明できるよう、膨大なデータと分析を要求されたものです。何度上司に持っていっても、「○○が足りない」「△△も用意しておいてくれ」と言われ、キリがありません。

揚げ句の果てに、「これじゃあ分からん。誰が見ても判断できるような資料を用意しろ」と言われる始末。「だったら小学生に役員をやらせたら?」と思わず言いそうになりました。

もちろん、必要な情報がないと判断はできません。しかしながら、すべての情報を集めて判断することはできず、それをやっていたら機を逸してしまいます。合理性に限界がある「限定合理性」の中で意思決定をするのがリーダーの仕事です。あわせて読みたい視点と視野と視座は何が違う? 対義語も思考ツールに本当の問題をしっかり探り出す3つの条件

それに、多くの場合、意思決定にはジレンマを伴います。感染症の拡大を防止しようとすると、経済にダメージを与えてしまう、といったように。健康と経済のどちらを優先するか、まさに決断が求められます。

方策を考えるときも同じです。打ち手をいろいろ考えても、全部できるわけではありません。総花的にやるよりは、効果的な策に集中したほうが、得られるものが多くなります。

そのために必要となるのが「重点思考」です。「今何が重要か?」「中でもどれが大事か?」と、優先順位をつけて考えるのです。そうやって、大胆にメリハリをつけ、要領よく進めていかないと仕事は回りません。

多面思考と重点思考をセットで使う

先回は「多面思考」を取り上げ、いろんな視点・視野・視座から考えること重要性をお話ししました。ところが、多面思考をやればやるほど、考えがまとまらなくなる恐れがあります。

そんなときは、「どの視点・視野・視座を優先させるか?」を決めないといけません。つまり、多面思考は重点思考とセットにして使わないと、実際にはうまくいかないのです。

たとえば、「〇〇すればもっと売り上げが伸びる」と主張する人がいたとしましょう。その考えが浅いと思ったら、多面思考で考えを広げることを促すようにします。

「売り上げだけでいいの? 利益は考えなくてもいい?」(視点)、「短期的にそれでよくても長期的には?」(視野)、「自社によくても競合はどう出るだろうか?」(視座)といったように。あるいは「他に?」だけでもよいかもしれません。

そうやって、いろんな観点で考えられたら、次は重点思考の出番です。「なかでも、どの視点が重要?」「どのアイデアが最も望ましい?」と問いかけて、考えを絞り込んでいきます。

ここで大切なのが、2つの思考をきっちりと分けることです。両者を混ぜて使うと、それぞれの良さを台無しにしてしまいます。多面思考をやっていうちに、「分かった。△△すればいいんだ」と早合点をしてしまう「飛びつき病」が悪い例の典型です。

特に大人数で議論しているとそうなりがちです。「意見を発散する(広げる)ステージと収束する(絞り込む)ステージを混ぜない」という会議の原則を忘れないようにしましょう。

重要なことに資源を集中する

重点思考を進める上で大事なのが、重要なものを見極めることです。

重要とは、物事の本質や根本に大きく関わる、価値の極めて高いことです。大げさに言えば、それによって自分たちの行く末が決まるようなものです。

ビジネスに当てはめると、目的の達成に大きく貢献したり、その成否に多大な影響を与えたりすることが、重要なものに他なりません。つまり、目的をはっきりさせることが、重要なものを見極めるための一番のポイントとなるわけです。

ビジネスでは、重要な20%によって結果の80%が生み出されているという「パレートの法則」が働くことがよくあります。上位20%の顧客(商品)が売り上げの80%を占めている、20%のセールスパーソンが全体の80%の販売を担っている、重要な20%の業務が仕事の80%の成果を生み出している、といったように。

だったら、重要なものに資源を集中するのが効率的です。残りは完成度を少し落としたり、アウトソーシングをしたり、もっと効率的なやり方に切り替えることを考えます。

そもそも、人はマルチタスクができるようにデザインされていません。多くの人は、シングルタスクで一点集中するほうが仕事の効率も高まります。

マネジャーの一番大切な仕事とは?

この考えを組織全体で進めていくのは大変です。目的を理解していない人がいたり、瑣末(さまつ)なことにとらわれる人がいたりして、「何が重要か?」のベクトルがそろわないのです。

そこで大切になってくるのがマネジャーです。

マネジメントを日本語で「管理」と訳したために、マネジャーの役割を勘違いしている人がいるかもしれません。部下に仕事を割りつけて進捗をチェックするのが本務ではありません。それはコントロールであってマネジメントではありません。

動詞のmanageは「どうにかする」「何とかする」というのが原意です。たとえば、海外から来たお客様に今夜の接待を申し出たとこと、I can manage by myself(自分でどうにかしますから)と辞退されることがあります。Manageとはそんなときに使う言葉です。

一番しっくりくる日本語は「やりくり」だと思います。与えられた資源(ヒト・モノ・カネ)をやりくりして、どうにか組織の目標を達成する。それがマネジャーの本務です。

そのためには、「何を目指しているのか?」「今何をすべきか?」が共有できていないと始まりません。つまり、マネジャーの一番大切な仕事は、「何が重要か?」、言い換えると仕事の優先順位をブレずに全員に徹底させることです。重点思考の旗振り役に他ならないのです。

平時はもちろんのこと、非常事態になればますますそうなります。右往左往する現場に的確に方向性を示せないと、組織の力がひとつになりません。不透明で不確実な時代に生きるからこそ、重点思考が私たちに求められているわけです。堀公俊
日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「ファシリテーション入門第2版」「会議を変えるワンフレーズ」など。

伊藤忠系VC、社会人対象の起業家育成 事業計画を助言

伊藤忠商事子会社のベンチャーキャピタル(VC)、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV、東京・港)は起業家育成に乗り出す。主に社会人を対象に事業アイデアを募集し、有望なチームにはITVの投資担当者らが4~5カ月間、事業計画などを助言し、ITV以外のVCとの橋渡しも行う。12日から1回目の募集を始める。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズの投資担当者らが起業家の卵に直接助言を行う

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伊藤忠テクノロジーベンチャーズの投資担当者らが起業家の卵に直接助言を行う

育成プログラムの名称は「KAKUSEI」。社会人経験者や企業に在籍中の人が主な対象となる。まず8チーム前後を選抜し、11月上旬から事業案の改善に向けた助言を行い、伊藤忠グループの営業網なども活用して情報収集を手助けする。改善した事業案は2021年4月上旬に投資家向けの発表会で披露する。半年を1サイクルとして年2回程度の開催をめざす。

プログラムは小売り、通信・IT(情報技術)、医療・ヘルスケア、働き方、交通や観光など地方再生を重点分野とする。新型コロナウイルスの影響で日常生活や経済活動に大きな変化が起きるなか、デジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめとするアイデアを集める。

伊藤忠系VC、IT新興発掘へ100億円ファンド

伊藤忠商事子会社のベンチャーキャピタル(VC)、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV、東京・港)は100億円を運用するファンドを立ち上げた。主に国内や米シリコンバレーのIT(情報技術)スタートアップへの投資を狙う。新型コロナウイルスの感染拡大で資金調達が難しくなるなか、有望な投資先に出資できるチャンスが増えると見ている。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、ドローンを使った設備点検サービスを提供するセンシンロボティクスにも出資している

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伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、ドローンを使った設備点検サービスを提供するセンシンロボティクスにも出資している

ファンドの名前は「テクノロジーベンチャーズ5号投資事業有限責任組合」。伊藤忠グループ各社のほか中小企業基盤整備機構(中小機構)やみずほ証券、三菱UFJ銀行、りそな銀行なども出資する。ITVは2000年に設立し、これまでの運用総額は約300億円だった。

ITVが出資したドローン制御ソフト開発のセンシンロボティクス(東京・渋谷)は、このほど伊藤忠本体と協業を始めた。ドローンを使った工場などの設備点検サービスを連携して販売する。伊藤忠はコロナ収束後の人手不足も見据え、先進技術を確保するため、ITVのネットワークを活用していく考えだ

人手不足産業に「出向」 政府、労働移動支援に軸足

厚生労働省 雇用調整助成金 9月30日

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

インターネット通販への消費シフトにより、物流でも人材需要は大きい

インターネット通販への消費シフトにより、物流でも人材需要は大きい

雇用政策の軸足が、これまで働いてきた企業での雇用維持から、人手不足の産業への移動支援に移り始める。政府は2021年1月から雇用調整助成金の特例措置を段階的に縮小するのに合わせ、業種を超えた出向や新たなスキルの習得を後押ししていく。「失業なき労働移動」に成功するかどうかが経済回復のカギを握る。

新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の収縮で、企業が内部に抱える休業者は一時600万人近くに膨らんだ。政府は従業員に休業手当を支払う企業を支援する雇用調整助成金の特例措置で雇用維持を図ってきたが、人手不足の産業への労働力移動を妨げるとの指摘も出ていた。

このため、厚生労働省は25日に決めた21年度予算の概算要求に労働力移動を支援するメニューを盛り込んだ。

国と都道府県の職業能力開発施設や、NPOが運営する教育訓練機関の教育費用を負担する。職を一時的に失った人が無料で職業スキルを学び、すぐに再就職できるように後押しする。要求額は990億円超とし、政府が予算案を決める年末の段階で積み増すこともできるようにした。

経営が厳しく雇用が過剰になった企業から人手不足の企業に向け、人材が在籍出向の形で移るのを支援する予算も求める。公益財団法人の産業雇用安定センターが人手の過剰業種と不足業種の両方から情報を集め、無料でマッチングする。同センターは47都道府県に事務所をおき、地域の業界団体と協力していく。

経済産業省は若い世代を中心に、ものづくりを担う地方の中小企業などに人材が移るのを後押しする。概算要求で30億円を計上し、人材の確保やデジタル技術の活用に積極的な企業を支援する。

同省も社会人の学び直しを支える予算を盛り込んだ。問題解決の能力を高め、新規事業を生み出せるようにするプログラムを始めるという。

厳しい情勢の続く雇用も、業種別にみるとばらつきが大きい。宿泊や外食などで就業者数の落ち込みが続く一方、人手不足が常態化している介護の有効求人倍率は7月に3.99倍に達した。

自宅から近い小売店やインターネット通販への消費シフトにより、スーパーや物流でも人材の需要は大きい。通販や在宅勤務を支えるデジタル人材のニーズも高く、情報通信業の7月の就業者数も前年水準を上回る。

第一生命経済研究所の田中理氏は「コロナによる社会の変化は長期化する」と指摘する。そのうえで「政府による特定企業での雇用維持策が長引くと、急ぐべき産業構造の転換が進まない」と語り、労働力移動に軸足を移していくことを主張する。

社会人の再教育により、デジタル人材を育てる取り組みでは欧米に後れをとっている。日本の再教育は産学官の連携が乏しく、労働市場のニーズとの開きが大きい。厚労省と経産省は教育内容の改善を急ぐ。

英国は休業者の給与や所得の80%を支援してきたが、10月に60%に減らす。欧州各国はデジタル技術の学び直しへの支援策を充実することで、コロナ後の成長力を高めようとしている。

厚労省は中小企業に最大100%助成し、支給上限額も日額1万5千円に引き上げた雇用調整助成金の特例について、21年1月から縮小する方針をすでに示している。

日本の7月の失業率は2.9%と前月から0.1ポイント悪化し、年末にかけてさらに上昇していくとみられる。厚労省の集計では、コロナ関連の解雇・雇い止めは見込みを含めて6万人を超えた。

雇用調整助成金による支援を急速に縮小すれば失業率の急上昇や社会不安を招く恐れもある。厚労省は雇用情勢や労働力移動の状況を見ながら、慎重に進める考えだ。

65歳以上、人口の28.7%に 4人に1人が就業。総務省推計、働く高齢者16年連続増

総務省が敬老の日を前にまとめた15日時点の人口推計によると65歳以上の高齢者人口は前年比30万人増の3617万人だった。総人口に占める割合は0.3ポイント上昇の28.7%でともに過去最多を更新した。2019年の65歳以上の就業者数は18年より30万人増の892万人で過去最高だった。

「団塊の世代」と呼ばれる1947~49年生まれを含む70歳以上の人口は78万人増の2791万人となった。後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上人口は24万人増の1871万人に上った。

日本の総人口は前年に比べて29万人減の1億2586万人となる一方、高齢者人口は増え続けている。

国立社会保障・人口問題研究所の推計で、高齢者の割合は今後も上昇が続く。第2次ベビーブーム世代(1971~74年生まれ)が65歳以上になる2040年には35.3%になる見込みだ。

一方で19年の65歳以上の就業者数は16年連続の増加となった。15歳以上の就業者総数に占める割合も18年に比べて0.4ポイント増の13.3%と過去最高だった。

65歳以上の高齢者の就業率は24.9%だ。13年に20.1%と2割を超え、6年でさらに4.8ポイント上昇した。男女別で見ると、男性は34.1%、女性は17.8%となった。いずれも8年連続で増えた。

足元は新型コロナウイルスの感染拡大による影響が出ていた。20年の統計をみると政府が緊急事態宣言を発令した4月の65歳以上の就業者数は前年同月比で7万人減った。5月以降は回復して増加に転じ7月は同29万人増の910万人だった。

19年の統計を業種別に見ると、卸売業・小売業が126万人で最多だった。農業・林業が108万人、サービス業103万人、製造業が94万人で続いた。

役員や自営業者を除く雇用者は503万人で、全体の56.9%を占める。このうち非正規の職員・従業員は389万人と77.3%で、4人に3人は非正規だった。

非正規の職員・従業員の高齢雇用者について理由を聞くと、男女ともに「自分の都合のよい時間に働きたいから」と答えた人が最も多かった。

「出産は突発的事故」だった 女性活躍の道のり長く

政府は「2020年までに指導的立場の女性を3割にする」という目標について、年末を待たずに達成時期の先送りを決めた。働く女性は増えたが、コロナ禍で大きな痛手を受けているのもまた女性だ。橋本聖子・女性活躍担当相に「女性の活躍」政策の評価と、今後の取り組みについて聞いた。

――年内に策定予定の第5次男女共同参画基本計画で「20年代の早い段階での30%達成」を目指すとのことです。現状をどう受け止めていますか。

安倍晋三内閣の約8年で新たに330万人超の女性が就業し、子育て期にいったん仕事を離れ就業率が下がるM字カーブの解消も進んだ。そもそも少ないとはいえ、上場企業の女性役員は3倍以上になった。ただ、諸外国が非常に進んでいるので、ジェンダー・ギャップ指数ランキングは121位と前年より下がっている。中でも低いのは政治分野だ。各政党にお願いしながら、自民党内でも理解を進めていく必要がある。女性は家庭、男性は仕事という固定的な考え方が、年代によってまだまだ多いのが問題だ。

30%の目標は一年でも早く達成したい。それには今まで以上のスピード感が必要だ。女性の声をしっかり聞き、やりたいことを形に変えていく。土台はしっかり構築されてきている。無理やり数を達成するのではなく、みんなで目標に向かって楽しく進みたい。

20年に30%という目標を最初に掲げたのは17年前。当時は必ずしも社会全体で十分に共有されなかった。私自身、00年に最初の子を出産したが、現職の国会議員としては50年ぶり。産休は認められておらず、休み願いを提出する際も理由の欄に出産という項目がない。その他の欄に理由を書くよう言われ、何と書けばよいか尋ねたら「突発的事故」と。ぶっ飛んだ。

出産して1週間で復帰し、議員会館にベビーサークルを作って授乳しながら会議に出たが、世間は賛否両論でノイローゼになった。休むべきではないという意見もあれば、堂々と産休を取ってくれたら私たちも取りやすいのに、というファクスも女性からいただいた。

同じ時期に海外では当たり前のように政治家が出産し、米国では男性が妻の出産のため休暇を取っていた。最近は多くの女性議員が出産するようになり、話題にもならなくなった。話題といえば小泉進次郎環境相だろうが、これからは国民に選ばれた議員だからこそ、しっかりと示していくことが大事だと思う。皆さんと一緒に男女共同参画を展開していくことが必要だ。

――コロナ禍で女性の雇用が縮んでいます。現状をどのように捉えていますか。

影響はこれから調査し、対応していく。また、こういう状況だから見えてきた新しい職業もある。例えばコロナ禍で病院に行かなくなる人が増えた。通院者が減るのは本来いいことだが、今は病院の収益を圧迫している。これを機に予防医療に力を入れてはどうか。地域の医療機関が中心となってスポーツ、食、科学技術、観光などを組み合わせ、新しい産業を創り出す。健康寿命の延伸は私のライフワークの一つで、スポーツ界では予防医療を徹底している。そこに女性の視点を入れることで、世界に発信できる産業を育てる。全てがマイナスではなく、どんな困難なことでもチャンスと捉えたい。

――世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数では特に政治分野での男女格差が大きく、海外では議員や候補者に一定数の女性を割り振るクオータ制を導入して課題解決を図っています。

女性に政治参画してもらうための教育を地方の議会や政党と取り組みたい。数合わせで立候補してもらっても、女性の政治家が活躍しやすい環境が整備されていないと萎えてしまう。

環境整備が遅れると数が増えないから、まずはクオータ制などの法整備を、という声もあるだろう。今は各政党が議論するところまで意識改革を進めたい。有権者の半分以上が女性。議員も女性が半分いて当然だ。

(中村奈都子氏・女性面編集長)