月: 2020年10月

転職エージェント使うなら 大手・中小を上手に併用

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

頼れるエージェントとの出会いは転職成功につながりやすい(写真はイメージ) =PIXTA

今回は、「転職エージェント」の裏話をお話ししましょう。結論から先にお伝えしますと、転職活動にあたって転職エージェントを利用するなら、「大手総合エージェント」と「中小エージェント」を併用するのが得策というお話です。

その背景には、「ジョブハンティング」という動きの活発化があります。これからの時代、転職エージェントをどう活用すればチャンスを広げられるかについてご紹介します。

まず、従来の転職エージェントの活動とは、次のようなものです。

<対・求人企業>

クライアント企業から求人依頼を受けたら、自社に登録している転職希望者の中からマッチしている人材を探して紹介する。マッチする人材がいなければ、新たにマッチする人材が登録したときに紹介する。

中小エージェントや大手エージェントの一部(例:ハイキャリア層担当)などの場合、自社登録者の中にマッチする人材がいない場合、大手求人サイトの「スカウトサービス」登録者リスト、「ビズリーチ」「LinkedIn(リンクトイン)」などへ探しに行き、声をかける。

<対・転職相談者>

転職希望者から相談を受けたら、依頼されている求人の中からマッチする求人を紹介する。マッチする求人がなければ、「今はご紹介できる求人がありません。出てきたらお声がけします」と伝える。

では、最近の転職エージェントの動きはどう変わってきているのでしょう。

転職希望者から相談を受けたら、出ている求人(顕在求人)の中からマッチするものを探すだけでなく、「潜在求人」を探しに行くようになっています。

つまり、転職希望者から経験・スキル、志向や価値観を聞き、「この人の強みはどんなポジションで生かせるだろう」と想像し、「この会社なら、この人を欲しがるのではないだろうか」と考えた会社に対し「こういう人材がいますが、会ってみませんか?」と提案しに行くのです。もちろん、転職希望者本人の承諾を得た上で、です。これを「ジョブハンティング」といいます。

「求人ありき」から「転職希望者ありき」へ

転職エージェントがこのような活動にシフトしている背景には、「採用システムの進化」と「人材戦略の変化のスピードの加速」があります。

近年、恒常的に採用を行っている企業の多くは「ATS」というシステムを導入しています。これは「Applicant Tracking System」の略で、「採用管理システム」「採用支援システム」を指します。採用に関わる業務プロセスを一元管理することで、効率的な採用活動ができるシステムです。

この中には「エージェントへの求人依頼」を管理する機能が含まれています。

以前は、エージェントに求人を依頼する際、取引先のエージェント一社一社に求める人材要件を伝え、途中で要件が変わったり、募集をストップしたりする場合、それをエージェント一社一社に連絡しなければなりませんでした。

しかし、ATS導入によって、この手間が大幅に省かれました。求人企業はATS上に求める人材要件、その変更事項などを1度入力しておけば、取引先のエージェントはそこにアクセスすることで最新情報を入手できるのです。

ですから、求人企業としては取引先エージェントとのやりとりの工数が省けた分、紹介ルートを広げるために、中には数十社の転職エージェントに情報公開しているケースもあります。

中小エージェントが「ジョブハンティング」に注力する理由

では、ATSの登場で、転職エージェントはなぜ動きを変えたのか。そこには「企業側の求人ニーズの変化をキャッチアップしきれない」という問題があります。

昨今、ビジネス環境の変化のスピードが速く、企業の組織・採用戦略、人材ニーズも刻一刻と変わっています。特にコロナ禍によって、企業は事業面でも組織体制面でも、急激な変化を強いられている状況。求人ニーズの変化のスピードがさらに速くなっています。転職エージェントとしては、企業側の求人の動きを追いきれなくなっているのです。

そこで、中小エージェントでは「求人ありき」から「転職希望者ありき」に転換。その人にふさわしい「潜在求人」を探しに行く「ジョブハンティング」に力を入れるようになったというわけです。

それに、中小エージェントの場合、求人企業の経営者・経営陣のカウンターパートとして、いち早く経営戦略・事業戦略、それに伴う組織課題を聞いています。つまり、人事サイドで「求人」として顕在化する前段階で、「潜在的な人材ニーズ」をある程度キャッチできているのが強み。「転職希望者ありき」にシフトした場合も、頭にインプットされている「潜在求人」とマッチングしやすいのです。

場合によっては“卵が先か鶏が先か”理論で、人ありきで事業戦略が大きく前進することもあるので、企業側も人材の提案は歓迎します。

企業の「潜在ニーズ」「未来ニーズ」を予測

私が経営するmorichの場合、幸いにして優秀なエンジニアのサポートを受け、取引先企業の求人の最新情報をいち早く取り込める体制を整えました。それでも、「求職者ありき」でジョブハンティングをする割合が半分ぐらいに増えています。

多くの企業の経営者から直接「ミッション・ビジョン・バリュー」、そして、組織課題・組織戦略を聞いて理解しているので、転職希望者の方の経験や価値観をお聞きすると、いずれかの会社が頭に思い浮かびます。

その会社が人材募集をしていなくても、「この人なら、御社の今後のビジョンに向けて推進役を担えるのでは」「〇〇社長とのケミストリーがありそう」と提案すると、ポジションを新たに用意して迎えていただけることも数多くあります。

例えば、30代の事業開発職・Aさんから相談を受けたケースです。AさんはあるIT企業で海外事業の立ち上げを担当していましたが、会社の方針変更で撤退が決まってしまいました。別の事業部に異動したものの、消化不良の状態に。「海外事業へのチャレンジを成功させたい」という思いを強め、転職を検討していました。

Aさんの話を聞いて浮かんだのが、ITベンチャー・B社です。国内で事業展開していたB社ですが、プロダクトの特性上、海外マーケットへの進出もあり得ると想像できました。社長は海外留学経験もあり、きっと海外志向もあるのではないかと思われました。

そこでAさんの承諾を得てB社にお声がけしたところ、「まさに来年度から海外事業の展開を考えていた」とのこと。Aさんはそのプロジェクトリーダーとして採用されました。

今後は、あらゆる中小エージェントでこうした「ジョブハンティング」のスタイルが定着し、スタンダードになっていくのではないかと予測しています。

プロアスリートのエージェントの場合は、もともとこういうスタイルですね。そのアスリートの経験・能力が生かせて、やりたいことを実現できるチームを探して、入団交渉を代行する。ビジネスパーソンの転職においても、そんなスタイルになっていくのではないでしょうか。

大手と中小、それぞれのエージェントのメリットを活用しよう

ちなみに、大手総合エージェントの場合、こうした動きはなかなか難しいと思います。中小エージェントでは、1人が企業側・求職者側双方とコミュニケーションをとりますが、大手では、企業と折衝する営業と、転職希望者の相談に応じるアドバイザーの役割が明確に分かれているからです(一部、ハイキャリア層担当部門では例外もありますが……)。

そもそも大手では、求人情報管理システムが充実していたり、営業担当が企業ニーズをこまめにフォローしていたりするので、ジョブハンティングに力を入れる必要もあまりないともいえます。とはいえ、大手エージェントには、膨大な量の求人が集まってきています。網羅的に自分にマッチした案件をサーチするなら大手にも登録してみるのも手です。

ですから、転職活動をするなら、大手エージェントと中小エージェントの両方を併用することをお勧めします。

●「顕在求人」の網羅性が高い大手エージェントを利用すると、より多くの求人情報を得られ、選択肢が広がる。

●「潜在求人」のサーチに力を入れている中小エージェントを利用すると、本当に自分にマッチした1社に出会える可能性がある。

このように、それぞれのメリットを活用し、チャンスを広げていただきたいと思います。

「ジョブハンティング」のサービスが多様化

「求職者ファースト」「ジョブハンティング」というスタイルをさらにアレンジした転職エージェントも登場しています。エージェント側から企業を紹介せず、転職希望者自身が志望企業を決め、エージェントに持ち込むというスタイルです。

例えば、HRテクノロジーズが運営する「バクテン」では、転職希望者が転職先の候補企業を最大5社まで持ち込み、転職のプロがその会社に採用されるための支援――例えば職務経歴書のブラッシュアップや面接対策などのアドバイスを行います。

そして「バクテン」から企業へ紹介。面接を経て入社に至ったら、50万円もしくは100万円のキャリアアップ支援金をキャッシュバックするというサービスです。キャリアパスが多様化する時代、こうした「ジョブハンティング」は、様々なスタイルで広がっていくのではないでしょうか。

「ジョブハンティング」による転職活動を成功させるためには、自身の強み、志向をしっかりと見つめ、言語化して伝えられるようにすることが大切です。「こんな経験をして、こんな成果を挙げた」だけで終わらせず、自分は他者に比べてどんな力に長(た)けているのか、企業にどう貢献できるのか、自分の仕事によってどんな世界を実現したいのか、どんなキャリアを歩んでいきたいのか。それらをしっかり整理したうえでエージェントに相談すれば、より自分にマッチする1社に出会える可能性が高まるでしょう。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊『マンガでわかる 成功する転職』(池田書店)、『トップコンサルタントが教える 無敵の転職』(新星出版社)ほか、著書多数。

富士通とNECが脱「紺屋の白袴」 DX率先できるか

日経クロステック

他者を変えたければまず自分から――。富士通NECが「脱・紺屋(こうや)の白袴(しろばかま)」ともいえるプロジェクトに挑んでいる。全社の基幹システムを刷新し、データに基づき迅速な経営判断を下せる体制を整える。バラバラな構成だった世界のグループ企業の基幹システムを独SAP製統合基幹業務システム(ERP)パッケージで統一。業務プロセスも標準化し、経営とIT(情報技術)を一体化させた理想的な姿を目指す。

両社は顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援を事業の柱にすると表明済み。率先してDXを進め、自らを顧客向けのショーケースにする考えだ。

■富士通、世界統一システムへ

富士通が進めているのが「One ERPプロジェクト」だ。SAPや米オラクル製のERPパッケージ、独自開発アプリケーションなどバラバラな構成の基幹システムを、SAPの「S/4HANA(エスフォーハナ)」に統一する。

「グループ社員13万人、売上高4兆円規模の日本企業として最大のSAP導入事例になる」。同プロジェクトを率いる福田譲執行役員常務は、こう説明する。福田氏は時田隆仁社長に請われ、SAPジャパン社長から富士通に転じた。顧客企業のSAP導入を支援してきた立場から、ど真ん中の当事者として導入を推進する。

同プロジェクトの総投資額は非公表だが、「一般論としては500億~600億円かかる」(福田執行役員常務)。2023年4月をメドに日本の本社向けシステムを稼働させる方針だ。

規模だけでなく難度も「極大」(同)という。目指すのはグローバル・シングルインスタンス、すなわち世界の富士通グループ全体で単一のシステムを導入する。日本の富士通本体にグローバル標準のシステムを導入し、世界の各拠点は同システムをクラウド経由で利用する、といった形態が一案だ。拠点ごとのカスタマイズは、原則として認めない。

富士通はERP導入と表裏一体で社内の業務改革プロジェクトも進めている。「フジトラ・プロジェクト」と名付け、20年7月に始動した。

「19年に社長に就任した際、IT企業からDX企業へ変わると宣言した。DXはデジタル技術を適用すれば成し遂げられるものではない。業務プロセスや企業風土など、企業や団体の体質そのものを変える必要がある。顧客や社会のDXを推進すべく、富士通自身のDXに取り組んでいる」。時田社長は改革の狙いをこう述べた。時田社長は自ら最高DX責任者(CDXO)を名乗り改革の陣頭指揮を執る。

富士通の時田隆仁社長

富士通の時田隆仁社長

フジトラ・プロジェクトの推進体制として現場の事業部門から「DX Officer(オフィサー)」、CEO室に「DX Designer(デザイナー)」と呼ぶ担当者をそれぞれ設けた。「部門同士の横の連携をDX Officerが担い、経営と現場の縦の組織をDX Designerがつなぐ」(福田執行役員常務)。

■NEC、社内外のデータ活用基盤整備へ

NECは同社グループの基幹システムを従来の「SAP ECC 6.0」からS/4HANAへ刷新するプロジェクトを進めている。同時にデータ分析・活用システムも構築する。21年度中にNEC本社向けのシステムを稼働させる。既にシンガポールやタイ、オーストラリアなど海外10カ国14拠点で稼働済みだ。

同社は10年から国内外のグループ会社にSAPのERPパッケージを導入し、販売や経理、購買といった業務プロセスの標準化を進めてきた。自社の基幹系データに加え、顧客データやインターネット上のSNS(交流サイト)投稿データなど社内外の様々なデータを分析、活用できるようにするため、全面刷新を決めた。

「経営と業務、ITを一体にした改革こそ目標であり、ERPパッケージは手段にすぎない」。富士通とNECはともにこう強調する。

両社は経営戦略から組織運営、人事や会計の制度・ルール、業績やマスターといったデータ、業務プロセス、アプリケーション、ITインフラまで全てをグローバルで標準化する。IT企業が掲げる最も理想的なプロジェクトを率先垂範する考えだ。理想的であるものの、その分だけ難度も高い。

両社が目指す姿はパッケージソフトを提供する企業などとともに顧客企業へ売り込んできたものだ。では、これまでどの程度実践できていたのか。新たな事業の柱と位置付けるDX支援とは、まさにIT導入にとどまらず業務そのものを変える取り組みにほかならない。DX支援の担い手を名乗る以上、自分たちすら変えられなければ顧客の変革はおぼつかないだろう。

(日経クロステック/日経コンピュータ 玉置亮太氏)

NTTコム1万4000人の在宅勤務支えるゼロトラスト

テレワークするNTTコミュニケーションズの従業員(出所:NTTコミュニケーションズ)

テレワークするNTTコミュニケーションズの従業員(出所:NTTコミュニケーションズ)

日経クロステック

新型コロナウイルスの感染が拡大した4月以降、NTTコミュニケーションズでは約6000人の社員に契約社員や協力会社の従業員も含めた最大1万4000人が在宅勤務を継続している。それを支えているのが、VPN(仮想私設網)やVDI(仮想デスクトップ環境)への過度の依存を排した「ゼロトラスト(信用しない)」型のテレワーク環境だ。

NTTコムが新しいテレワーク環境を構築したのは2018年のこと。それまでも同社は、データをサーバーで保存するシンクライアント端末を使うテレワーク環境を従業員に提供していたが、使い勝手が悪いという大きな問題点を抱えていた。

従来のテレワーク環境においては、従業員はオフィスの外で業務をする場合、必ずシンクライアント端末を使用し、VPN経由で社内にあるVDIにアクセスし、仮想デスクトップを使ってオフィスソフトウエアや社内の業務アプリケーションを使用していた。

スマートフォンを使って業務する場合もVPN機能を搭載した「セキュアブラウザー」という仕組みを使わせ、必ずVPNを経由させていたほか、端末へのデータのダウンロードなども禁止していた。

こうした仕組みの問題点は、使い勝手が悪かったことだ。例えば電子メールを確認する場合でも、シンクライアント端末では端末を起動してVPNに接続し、仮想デスクトップでメールソフトを立ち上げてメールを確認するまでに7~8分かかっていた。スマホの場合も、セキュアブラウザーを使ってVPN接続などを済ます必要があるため、メールを確認するまでに40秒を要していた。

■データ保存できる端末持ちだし可能に

使い勝手の悪いテレワーク環境は従業員の生産性を落とす――。そう考えて18年に構築した新たなテレワーク環境では、従業員がオフィス外にノートパソコンやスマホを持ち出して、端末にデータを保存し、端末上でアプリケーションを動かして業務ができるようにした。いわゆる「FAT(ファット)端末」を社外でも利用できるようにしたのだ。

NTTコミュニケーションズにおけるテレワーク環境の変化

NTTコミュニケーションズにおけるテレワーク環境の変化

NTTコムは従業員がパソコンやスマホを社外に持ち出せるようにするために、デバイス保護やアプリケーション管理、ファイル暗号化などのツールを導入し、端末をサイバー攻撃から守る包括的な対策を施した。

従来は、インターネットと社内ネットワークとの境界にVPN機器を設置するなどの対策を施した境界型セキュリティーで守られた社内でなければFAT端末が利用できなかった。それを、境界型ではないセキュリティー対策を導入することでどのようなネットワークにあってもFAT端末が利用できるという、ゼロトラスト型のやり方に切り替えたわけである。

具体的には、まずデバイスの保護に「EDR(エンドポイント検知・対応)」と呼ぶツールである米マイクロソフトの「Microsoft Defender Advanced Threat Protection(マイクロソフト・ディフェンダー・アドバンスド・スレット・プロテクション、ATP)」を採用した。国内外でセキュリティー事業を展開するグループ企業のNTTセキュリティと連携しながら、デバイスへの攻撃をいち早く検知し対策を講じる体制を整備した。

Windowsパソコンに関しては「TPMセキュリティーチップ」を使った暗号化機能である「BitLocker(ビットロッカー)」や、生体認証の「Windows Hello(ウィンドウズハロー)」も利用している。

また、モバイルデバイス管理/モバイルアプリケーション管理(MDM/MAM)ツール「Microsoft Intune(インチューン)」によって、デバイスの利用をアプリケーション単位で細かく制御している。例えばスマホの利用は「会社領域」と「個人領域」に仮想的に分割。業務で利用するクラウド経由のアプリ(SaaS=サース)は会社領域でなければ利用できず、会社領域のアプリのデータを個人領域に持ち出せないようにしてある。

このほか外部に機密ファイルが漏洩する事態を想定し、データを自動的に暗号化する「Azure(アジュール)RMS」も利用している。

■「VPN渋滞」を回避

NTTコムがテレワーク環境をシンクライアント端末からFAT端末に移行した背景には、17年5月全面施行の改正個人情報保護法に伴う情報漏洩の扱いに関する国の方針の変更があった。

新しい指針においては、高度な暗号化などの秘匿化が情報に対して施されている場合であれば、その情報を保存した端末を紛失したような場合であっても、情報そのものは外部に漏洩していないとみなされるようになった。シンクライアント端末を使う必要がなくなったため、使い勝手の良いFAT端末に切り替えたわけだ。

テレワーク環境を快適に利用する仕組みも取り入れた。多くの企業ではインターネットへの出口をデータセンターのファイアウオールなどに限定しているが、そこにSaaS向けの通信が集中することでボトルネックになる、いわゆる「VPN渋滞」と呼ばれる事態が生じがちだ。

NTTコムはデバイスからの通信経路を自動的に切り替える技術「スプリットトンネリング」を採用。SaaSについてはインターネット経由で直接利用する。オンプレミス(自社サーバー)の業務システムを利用する際は、SSL暗号通信を行うSSL-VPNに自動的に切り替えて社内に接続する仕組みにして、VPN渋滞を回避している。

同社はこのようにデバイスからアプリケーション、データまできめ細かく制御するテレワーク環境を構築していたことで、新型コロナ禍でも大規模な在宅勤務スムーズに移行できた。

人けの無くなったNTTコミュニケーションズのオフィス(出所:NTTコミュニケーションズ)

人けの無くなったNTTコミュニケーションズのオフィス(出所:NTTコミュニケーションズ)

使い勝手も大きく向上した。シンクライアント端末時代は端末を起動してからメールを確認するために7~8分かかっていたのが、新しいFAT端末ではその時間が1分にまで短縮した。スマホでのメール確認までにかかる時間も、セキュアブラウザーを使っていた従来の環境では40秒かかっていたのが、10秒にまで短縮した。

さらに現在は、テレワーク環境の構築・運用で培ってきたゼロトラストネットワークを社内の隅々まで行き渡らせようとしている。背景にあるのが5月に発覚したサイバー攻撃の被害だ。

■サイバー攻撃被害で対策徹底へ

同社は5月28日、法人向けクラウドサービスの運用サーバーなど自社設備に対する不正アクセスで顧客情報が外部に流出した恐れがあると発表。7月2日には社員になりすました攻撃者による別のサイバー攻撃も受けていたと公表した。

「反省すべきは『社内なら安全』との考え方を残していたこと。ゼロトラストの観点に立って対策を急がなければならない」と、NTTコムの久野誠史デジタル改革推進部情報システム部門担当部長は話す。

実は最初に攻撃者の侵入を許したのは撤去予定だったサーバーで、EDRによる防御の対象ではなかったという。またNTTコムは全社の認証基盤に「Azure Active Directory(アジュール・アクティブ・ディレクトリー)」を利用してIDを一元的に管理しているが、今回攻撃を受けたシステムでは、それが徹底できていなかった。

目下、NTTコムは足元の対策から中長期的な対策まで幅広い再発防止策を進めている。まずはEDRの全社展開を急いでおり、ファイルの利用権をきめ細かく管理する「Azure Information Protection(アジュール・インフォメーション・プロテクション、AIP)」も20年内に本格導入する方針だ。AIPは暗号化されたファイルを開くたびにIDを認証するツールで、ファイル配布後に利用権を取り消したり、どの場所からアクセスされたかを確認したりできる。

また、社内から業務システムにアクセスする際は常に多要素認証を使うことを検討している。オンプレミスの業務システムを段階的に縮小してSaaSに移行させる取り組みも、これまで以上に強化するという。

今回のサイバー攻撃はNTTコム社内の「ゼロトラストネットワークになっていない」範囲を弱点として突いたものとみなせる。言い換えれば、ゼロトラスト型の対策が現代のサイバー攻撃への備えとしてますます重要になっている、ということでもある。

(日経クロステック/日経コンピュータ 高槻芳氏)

ビジネスの成否は優先順位の見極め、試される決断力

意思決定はジレンマとの戦い

私が経営スタッフだった頃、役員会にかける提案の資料づくりをよくやらされました。どこから突っつかれても説明できるよう、膨大なデータと分析を要求されたものです。何度上司に持っていっても、「○○が足りない」「△△も用意しておいてくれ」と言われ、キリがありません。

揚げ句の果てに、「これじゃあ分からん。誰が見ても判断できるような資料を用意しろ」と言われる始末。「だったら小学生に役員をやらせたら?」と思わず言いそうになりました。

もちろん、必要な情報がないと判断はできません。しかしながら、すべての情報を集めて判断することはできず、それをやっていたら機を逸してしまいます。合理性に限界がある「限定合理性」の中で意思決定をするのがリーダーの仕事です。あわせて読みたい視点と視野と視座は何が違う? 対義語も思考ツールに本当の問題をしっかり探り出す3つの条件

それに、多くの場合、意思決定にはジレンマを伴います。感染症の拡大を防止しようとすると、経済にダメージを与えてしまう、といったように。健康と経済のどちらを優先するか、まさに決断が求められます。

方策を考えるときも同じです。打ち手をいろいろ考えても、全部できるわけではありません。総花的にやるよりは、効果的な策に集中したほうが、得られるものが多くなります。

そのために必要となるのが「重点思考」です。「今何が重要か?」「中でもどれが大事か?」と、優先順位をつけて考えるのです。そうやって、大胆にメリハリをつけ、要領よく進めていかないと仕事は回りません。

多面思考と重点思考をセットで使う

先回は「多面思考」を取り上げ、いろんな視点・視野・視座から考えること重要性をお話ししました。ところが、多面思考をやればやるほど、考えがまとまらなくなる恐れがあります。

そんなときは、「どの視点・視野・視座を優先させるか?」を決めないといけません。つまり、多面思考は重点思考とセットにして使わないと、実際にはうまくいかないのです。

たとえば、「〇〇すればもっと売り上げが伸びる」と主張する人がいたとしましょう。その考えが浅いと思ったら、多面思考で考えを広げることを促すようにします。

「売り上げだけでいいの? 利益は考えなくてもいい?」(視点)、「短期的にそれでよくても長期的には?」(視野)、「自社によくても競合はどう出るだろうか?」(視座)といったように。あるいは「他に?」だけでもよいかもしれません。

そうやって、いろんな観点で考えられたら、次は重点思考の出番です。「なかでも、どの視点が重要?」「どのアイデアが最も望ましい?」と問いかけて、考えを絞り込んでいきます。

ここで大切なのが、2つの思考をきっちりと分けることです。両者を混ぜて使うと、それぞれの良さを台無しにしてしまいます。多面思考をやっていうちに、「分かった。△△すればいいんだ」と早合点をしてしまう「飛びつき病」が悪い例の典型です。

特に大人数で議論しているとそうなりがちです。「意見を発散する(広げる)ステージと収束する(絞り込む)ステージを混ぜない」という会議の原則を忘れないようにしましょう。

重要なことに資源を集中する

重点思考を進める上で大事なのが、重要なものを見極めることです。

重要とは、物事の本質や根本に大きく関わる、価値の極めて高いことです。大げさに言えば、それによって自分たちの行く末が決まるようなものです。

ビジネスに当てはめると、目的の達成に大きく貢献したり、その成否に多大な影響を与えたりすることが、重要なものに他なりません。つまり、目的をはっきりさせることが、重要なものを見極めるための一番のポイントとなるわけです。

ビジネスでは、重要な20%によって結果の80%が生み出されているという「パレートの法則」が働くことがよくあります。上位20%の顧客(商品)が売り上げの80%を占めている、20%のセールスパーソンが全体の80%の販売を担っている、重要な20%の業務が仕事の80%の成果を生み出している、といったように。

だったら、重要なものに資源を集中するのが効率的です。残りは完成度を少し落としたり、アウトソーシングをしたり、もっと効率的なやり方に切り替えることを考えます。

そもそも、人はマルチタスクができるようにデザインされていません。多くの人は、シングルタスクで一点集中するほうが仕事の効率も高まります。

マネジャーの一番大切な仕事とは?

この考えを組織全体で進めていくのは大変です。目的を理解していない人がいたり、瑣末(さまつ)なことにとらわれる人がいたりして、「何が重要か?」のベクトルがそろわないのです。

そこで大切になってくるのがマネジャーです。

マネジメントを日本語で「管理」と訳したために、マネジャーの役割を勘違いしている人がいるかもしれません。部下に仕事を割りつけて進捗をチェックするのが本務ではありません。それはコントロールであってマネジメントではありません。

動詞のmanageは「どうにかする」「何とかする」というのが原意です。たとえば、海外から来たお客様に今夜の接待を申し出たとこと、I can manage by myself(自分でどうにかしますから)と辞退されることがあります。Manageとはそんなときに使う言葉です。

一番しっくりくる日本語は「やりくり」だと思います。与えられた資源(ヒト・モノ・カネ)をやりくりして、どうにか組織の目標を達成する。それがマネジャーの本務です。

そのためには、「何を目指しているのか?」「今何をすべきか?」が共有できていないと始まりません。つまり、マネジャーの一番大切な仕事は、「何が重要か?」、言い換えると仕事の優先順位をブレずに全員に徹底させることです。重点思考の旗振り役に他ならないのです。

平時はもちろんのこと、非常事態になればますますそうなります。右往左往する現場に的確に方向性を示せないと、組織の力がひとつになりません。不透明で不確実な時代に生きるからこそ、重点思考が私たちに求められているわけです。堀公俊
日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「ファシリテーション入門第2版」「会議を変えるワンフレーズ」など。

伊藤忠系VC、社会人対象の起業家育成 事業計画を助言

伊藤忠商事子会社のベンチャーキャピタル(VC)、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV、東京・港)は起業家育成に乗り出す。主に社会人を対象に事業アイデアを募集し、有望なチームにはITVの投資担当者らが4~5カ月間、事業計画などを助言し、ITV以外のVCとの橋渡しも行う。12日から1回目の募集を始める。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズの投資担当者らが起業家の卵に直接助言を行う

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伊藤忠テクノロジーベンチャーズの投資担当者らが起業家の卵に直接助言を行う

育成プログラムの名称は「KAKUSEI」。社会人経験者や企業に在籍中の人が主な対象となる。まず8チーム前後を選抜し、11月上旬から事業案の改善に向けた助言を行い、伊藤忠グループの営業網なども活用して情報収集を手助けする。改善した事業案は2021年4月上旬に投資家向けの発表会で披露する。半年を1サイクルとして年2回程度の開催をめざす。

プログラムは小売り、通信・IT(情報技術)、医療・ヘルスケア、働き方、交通や観光など地方再生を重点分野とする。新型コロナウイルスの影響で日常生活や経済活動に大きな変化が起きるなか、デジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめとするアイデアを集める。

伊藤忠系VC、IT新興発掘へ100億円ファンド

伊藤忠商事子会社のベンチャーキャピタル(VC)、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV、東京・港)は100億円を運用するファンドを立ち上げた。主に国内や米シリコンバレーのIT(情報技術)スタートアップへの投資を狙う。新型コロナウイルスの感染拡大で資金調達が難しくなるなか、有望な投資先に出資できるチャンスが増えると見ている。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、ドローンを使った設備点検サービスを提供するセンシンロボティクスにも出資している

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伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、ドローンを使った設備点検サービスを提供するセンシンロボティクスにも出資している

ファンドの名前は「テクノロジーベンチャーズ5号投資事業有限責任組合」。伊藤忠グループ各社のほか中小企業基盤整備機構(中小機構)やみずほ証券、三菱UFJ銀行、りそな銀行なども出資する。ITVは2000年に設立し、これまでの運用総額は約300億円だった。

ITVが出資したドローン制御ソフト開発のセンシンロボティクス(東京・渋谷)は、このほど伊藤忠本体と協業を始めた。ドローンを使った工場などの設備点検サービスを連携して販売する。伊藤忠はコロナ収束後の人手不足も見据え、先進技術を確保するため、ITVのネットワークを活用していく考えだ