1年無職、ベンチャーへ 50代の転職は幸せの選択肢50代からの転職(上) 

エール取締役 篠田真貴子さん

エール取締役 篠田真貴子さん

エール取締役 篠田真貴子さん

comemo

次代を担う「旗手」は何を感じ、何を考えているのか――。日本経済新聞社が運営する投稿プラットフォーム「COMEMO」から、「キーオピニオンリーダー」が執筆したビジネスパーソンにも役立つ記事を紹介します。今回は、外資系企業大手から「ほぼ日」最高財務責任者(CFO)を経て2020年、オンラインで社外人材による「1on1(ワン・オン・ワン)」と呼ぶ1対1の面談を提供するベンチャー、エール(東京・品川)に転職した篠田真貴子さんに、50代だからできることについて語ってもらいます。

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長い人生のなかで、50代というステージの捉え方は人それぞれだと思います。でも「人生100年時代」、あと20年くらいは仕事をしている可能性が高いのではないでしょうか。そう考えると、50代や60代でも自分のキャリアプランを見直してみる必要があり、それにより今後の可能性を広げることもできると思います。

外資系大企業の中で感じていた閉塞感

マッキンゼー・アンド・カンパニー、ノバルティスファーマ、ネスレニュートリションといった、いわゆる外資系の大企業にいた私が、なぜ「ほぼ日」へ行ったのかを聞かれることがあります。その時の私の感覚を言葉にすると、「閉塞感を感じていたときに、見たことないものが現れたのでつかんでみた」というものでした。あわせて読みたい常識外れでも増収増益 ほぼ日の篠田さん「出世」の定義なんて、人それぞれ

当時、私が感じていた「閉塞感」にはいくつかの要素がありましたが、その一つは、2人の子どもをもったことで起きた、仕事に投入できる時間の減少です。

それまでの私は「起きている時間はすべて仕事」といえるほどの働きぶり。上昇志向も強く、仕事も好きでした。ところが2人の子どもの親であることが自分の第一ミッションになり、しかも子どもは私の都合などお構いなしなので、いつ何が起こるかわかりません。

仕事に使える時間が減ったからこそ、面白い仕事がしたいという気持ちが次第に強くなりましたが、大企業の中では自分だけの都合で仕事を調整することは難しい。いろいろ考えても、1日24時間の中に仕事のこと、子どものこと、それ以外の自分の好きなことはどうやっても収まらないと気づきました。

こうした環境の下、昇格して職位が上がっていくことに魅力を感じられなくなっていたことも、閉塞感の要因になっていました。

初めて管理職になったときは、自分が認められたような気持ちになってうれしかったものです。しかし、途中から、職位が上がって予算や部下が増えるものの、本質的な仕事の課題は変わらないということに気づきました。

大企業の中で職位が上がることをモチベーションにできなくなったら、サラリーマンとしては失格だと思いました。もし、転職を考えたとしても、結局外資系大企業にいくのであれば、業界は違っても同じ状況で仕事をすることは変わりません。ここから先、まだまだ働かなければならない中で、こんなにモチベーションが下がっていてはダメだと感じました。

そのタイミングで「ほぼ日」の話をいただいたので、「どうなるかわからないけど、自分に見えていた選択肢とはまったく違うものでやってみたい」と思いました。

エールは企業の社員と社外の副業人材である聴き役をマッチングし、週30分間オンラインで面談して、社員のモチベーションや組織の生産性を上げるサービスを提供している会社です。1対1の面談で話を聴くことで、個人の力を引き出し、組織を強くします。

業績を上げたくても社員のモチベーションが上がらなければそれを実現できないことは、多くの企業が実感しています。しかし、具体的にどのようにコミュニケーションを改善していけばいいのか、対応策を打てていない状況です。そのための手段として、エールが外部から提供する1対1の面談を使ってもらう、ということです。

「話す・書く」より「聴く力」の重要性に気づく

「コミュニケーション」と言うと、多くの人は「話す・書く」といった「発信」に目がいきがちです。しかし、それ以上に「聴く力」は重要で、ビジネスでも社会でもこのことが当たり前のこととして認識されるようになれば、世の中はより良くなるはずです。そこに一歩でも近づきたいと、私は考えています。「聴く力」に魅せられてベンチャー企業、エールに転職した篠田さん(中央)

昨今、ビジネスで注目されているキーワードに「心理的安全性」というものがあります。これはグーグルが社内のパフォーマンスの高いチームを研究したところ、特徴として見られた傾向を公表したものです。その中で私が注目した特徴は以下の2つです。

・チームメンバー同士の話している量が均一である

・ボディーランゲージを読み解く力が高い

話す量が均一ということは、例えば5人のチームならば、5人それぞれ、話している時間は2割で残りの8割は聞いていることになります。さらにその聞いている時間は、音声だけでなく、ボディーランゲージをお互いに読み取り合いながらコミュニケーションしているということです。これが、心理的安全性を生みパフォーマンスを高めることにつながるのだとしたら、今、多くの職場が目指す状態を実現するには、「聴く力」というスキルを高めればよいのです。

心理的安全性が注目されている背景には、企業が高い成長を目指す場合、その事業にふさわしい優秀な人材を獲得しなければならないことがあります。とはいえ、多くの企業が人材の獲得で苦戦しています。雇う側と雇われる側の関係が変わってきたという社会的な要因もあるからです。

かつては、心理的安全性など企業が考えなくてもいいほどの買い手市場でした。しかしその関係が変わりフラットになりつつある中で、会社が選ばれ、優秀な人材に安心して能力を最大限発揮してもらうためには、心理的安全性がかなり高い状況をつくらなければならなくなっています。

インターネットが普及して、上下関係もなくフラットな世界観が私たちの暮らしにも浸透してきています。情報は決まった経路のみでやり取りされるのではなく、その時々で最も適切なネットワークが生まれ、その中を行き来する。すると、これまでは出来上がった上下関係や経路の中でとにかく偉くなって自分がコントロールする立場になることを考えていればよかったものが、これからは、自分を中心に自分にベストなネットワークをつくり、そこを流れる情報を自ら取りに行き編集しなければ、仕事の価値を生むことが難しくなります。

50代での転職をどう考えるか?

50代からの転職について、悩みを抱えている人、もしくはすでに無理だと諦めている人がいるかもしれません。私は年齢に関係なく自由に転職ができると考えたほうが、個人としてのチャンスは広がり、幸せになれる選択肢が増えるのではないかと考えています。ジョブレス期間中はできるだけ多くの人たちと会った(前列左が篠田さん、米ペンシルベニア大学ウォートン校の卒業20周年同窓会)

若い方に仕事や転職の話をするとき、私は「新卒で入った会社で定年までずっと働き続けるというのは、初恋の相手と結婚して一生添い遂げるようなもの」と伝えています。初恋の相手と一生を共にできることはとても幸せなことですし、すてきなことだと思います。でも「初恋の相手としか結婚はできません」と言われたら、つらいのではないでしょうか。

いろいろな人といろいろな形でお付き合いしてみて、その中で自分に合ったパートナー像が徐々にわかってきて、自分も人間的に成熟したところで「この人!」という相手を選べばいい。会社や職業選びも同じです。

今の日本の大企業の仕組みでは、本人の意思にかかわらず、ある年齢のところで「一線から退いてください」と言われてしまう。それは、個人の生きがいややりがいを生かせる仕組みだとは思えません。

40代後半のとき、大企業で働く同世代の男性の友人から、キャリアプランに関する相談を受けたことがありました。さすがにその年代になると会社での自分の行く末が見えてきます。私は「50歳を超えての転職は大変そうだけど、今ならギリギリ間に合うのではないか」とアドバイスしました。

とても親しい友人だったので遠慮なく、「私はそのあたりのことは、30歳までに考え終わっていたよ」と言いました。これは、私が女性だったからだと思います。終身雇用制度を採用する一般的な大企業の期待値に自分のライフイベントが合わないことが明白なので、20代のときには「結婚はどうする」「子どもはどうする」「キャリアはどうする」というこの先の人生の課題に直面していました。

女性であることによる葛藤や困難もありましたが、早くからそれらの課題の存在に気づくことができたので、結果的には良かったと思っています。会社の都合ではなく、自分がどう生きていきたいかを考えなければ前に進めないという状況に追い込まれたことは、いま振り返ればラッキーなことでした。

転職は無理にしなくてもいいと思います。今の自分の持ち場で頑張ることも、とても尊いことです。でもそのことと、「転職を悪だと思う」「自分には関係ないことだと思う」というのは別の話です。

例えば、経済的な事情などから「今は転職をするタイミングではない」ということはあるかもしれません。しかし、その後状況が変わり、実際に転職が現実的な選択肢になったときには、自信をもって検討すればいいのです。50代からでも60代からでも、新しいチャレンジを良しとする世の中になったらいいと思っています。

篠田真貴子
1968年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒、米ペンシルベニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行(現新生銀行)、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOを務めた。2018年退任、1年3カ月の空白期間を経て、2020年3月からエール取締役。

投稿者: 瑚心すくい

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