「テレワーク明けの出社きつい」相談急増 企業の対応策は? 鈴木安名・産業保健メンタルヘルス研究会代表理事に聞く

7月 4, 2020 テレワーク

新型コロナウイルスへの不安が消え去らない。感染リスクを軽減するためのテレワーク勤務は、もうビジネスパーソンの基本動作の1つと言って良さそうだ。しかし気になるのが「テレワーク疲れ」。出社をおっくうに感じたり、体調を微妙に崩した経験はないだろうか。部下から相談を受けるかもしれない。ウィズコロナ時代における心の健康法を、産業保健メンタルヘルス研究会(東京・千代田)の鈴木安名・代表理事に聞いた。

「テレワーク明けの出社イヤ」はうつ病にあらず

 ――テレワーク後の出社が精神的に大きな負担になっているビジネスパーソンが少なくありません。

 「産業医として現在担当している企業の人事部から、一番多く相談されるのも『テレワーク明けの出社がきつい』と訴える社員への対応方法です。現在、最大のメンタルヘルス問題かもしれません」

 「しかしメンタル不調ではなく、生活リズムの乱れが原因です。誰もが経験するような夏休み明けの心理状態と同じです。メンタル不調者に『頑張れ』と励ますのは逆効果ですが、今回は『頑張って出社しましょう』と勧めてみて下さい。午後からでも良いと時差通勤を促すのも現実的で効果的です」

 ――夜更かしの癖がつき、太りやすく疲れやすくなっているという声も聞きます。

 「テレワークの弊害の1つは生活リズムが乱れやすくなることです。特に睡眠不足はメンタル不調につながりかねません。起床後2時間以内に眠気を催すのは寝不足のサインです」

 「朝がつらい人は、3分間ほど空をみると良いでしょう。睡眠物質であるメラトニンが消えてきます。 夜は暗く。眼全体に入る光を減らすことで、メラトニンができやすくなります。見落としがちですが、浴室の照明も落として下さい」

 ――当日朝に「体調が優れないので有給休暇を申請します」といったメールが来ることもあります。

 「当日朝の欠勤連絡はメールやLINEではなくZOOMや電話連絡が望ましいです。メンタル不調者は画像が入るシステムより文字情報を好みますが、口調や声のトーンなどをみることは重要です」

 「ちなみに『今日は有給休暇にします』は本来合法的な申請ではありません。労働基準法39条5項には会社には不都合な時期における有給使用を拒否する権利があります」

メンタル不調、6つのポイントチェック

 ――テレワークを続けていると部下のメンタル面の調子が把握しづらいです。

 「6つのポイントをチェックしてみて下さい。(1)欠勤・パソコンを立ち上げない(2)遅刻・ZOOM立ち上げ遅延(3)泣き言(4)能率低下・長時間労働(5)ミス・トラブル(6)異動・転職希望――です。従来の職場でも応用可能です」

 「能率低下、ミスは早期にメンタル不調者を発見する目安です。欠勤、遅刻、泣き言、異動希望はかなり進んだケースでのサインです。特別なきっかけがないのに『仕事を辞めたい』は自殺したい気持ちの間接的な表現のケースもあります」

 ――メンタル不調の部下にどう対応すれば良いですか。あまり刺激したくない気持ちもありますね。

 「メンタル不調者に対し腫れ物を扱うように放任しておくことは虐待と同じです。部下の問題行為を指摘・指導せずに心療内科を受診させるのは企業の人材管理を医師に丸投げするようなものです。指導が欠かせません」

 「指導は(1)指導の対象となる事実の確認(2)注意する根拠の説明(3)言い訳させる(4)対策を考えさせる――の順で勧めます。相手への共感を示しつつ原則を述べるという配慮を忘れずに。プライドの高い社員から反論されれば一般論には具体的で、具体論には一般論で応じるのがコツです。必要ならば医療機関への受診を勧めるステップに移ります」

 ――医師への受診を勧めても仕事が忙しいなどの理由で先延ばしにするケースも出てきそうです。

 「会社は医療機関への受診や産業医への相談を勧める権利があり、安全配慮義務と表裏関係にあります。受診は業務命令が可能で、従わない場合は労務提供を拒否し傷病休職を発令できます。京セラ事件(東京高裁1986年11月13日判決)、空港グランドサービス事件(東京地裁1991年3月22日判決)で法的根拠が示されています」

 ――テレワーク中の部下から「消えてなくなりたいです。人事や家族には絶対言わないで」と告白された場合の正しい応対法は。

 「緊急事態の安全配慮義務は個人情報保護より優先します。『消えたい』『死にたい』といった希死念慮の言葉が出れば守秘義務を解除し、繰り上げ受診を命令し、自分か家族の付き添いで診断を受けさせるべきです。プライバシーを過剰に重視する合理的理由はありません。単なる不眠症で通院中の場合は、緊急事態に該当せず健康情報になります。本人の承諾を得ないでの情報開示は不適切です」

 ――テレワークが定着すると人間関係が希薄になり、かえってメンタルヘルス面のトラブルが増加すると懸念する声もあります。企業は争訟リスクをどう軽減すべきでしょうか。

 「テレワークとメンタル不調の関連は現在の時点では明らかではありません。ただ産業医の立場から注意したいポイントは(1)争訟を恐れない。腫れ物を触るような放任姿勢は後日の争訟リスクを高める(2)リスクが高いのは自己マネジメントが下手、かつ人間関係を仕事に持ち込む愛憎系社員(3)勧奨指導はビデオ会議システムなどで記録しておく。熱血指導は避ける(4)雇用上の労使双方の義務を確認し、分かりやすく説明しておく――です。会社側は賃金支払義務、安全配慮義務、職務遂行能力開発のための配慮義務があります。従業員には労働義務と職務専念義務、業務命令に従う義務、誠実義務と職場秩序順守義務があります」

 「テレワークは仕事の自由度が高まる反面、規律や秩序が乱れる恐れもあります。会社は個別の労務管理が欠かせなくなります。ウィズコロナ時代に勝ち残るのは人事・労務が強い会社だろうとみています」

(聞き手は松本治人氏)

投稿者: 瑚心 すくい

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