入社以来、出社なし 気をつけたいテレワークストレス 産業医・精神科専門医 植田尚樹氏

6月 13, 2020 ストレス

社員がいきいきと働き、高いパフォーマンスを発揮する職場をつくるには何が必要か。産業医として多くの企業で社員の健康管理をアドバイスしてきた茗荷谷駅前医院院長で、みんなの健康管理室代表の植田尚樹医師に、具体的な事例に沿って「処方箋」を紹介してもらいます。

新型コロナウイルス感染症対策で、場所や時間にとらわれないテレワークやリモートワーク(遠隔勤務)の普及が急速に進んでいます。通勤や客先を訪問する必要がないなど、効率的な新しい働き方として注目を集めています。ただ、出社して対面で仕事をする従来の働き方からの変化は、運用次第では社員のストレスを増し、メンタルヘルス不調を招きかねません。

今年4月1日に入社、オンラインで1カ月間の在宅研修の後、配属先も決まり、現在は在宅勤務で職場内訓練(OJT)を受けています。新型コロナ対策として入社以来、出社することなくテレワークを続けています。

4月中旬から、頭痛や胸の痛みを覚え、不眠に悩まされるようになりました。

就職で上京してひとり暮らし。会社の先輩たちは「みんな、すごく優しい」とはいうものの「仕事上の会話しかしていない」といい、「人とまともに話をしていない」と訴えていました。

「早く一人前にならなくては」

現在は先輩の指導を受けながら、仕事を学んでいく段階ですが、「早く一人前にならなくてはいけない」というプレッシャーを感じているといいます。新人を集めた技能テストで残念な成績に終わったこともあり、「こんな成績で、この会社で働いていけるのだろうか」と思い悩み、「どうしても自分を責めてしまう」というのです。

業務についての基礎知識がないこともあり、不明な点をメールやチャットで先輩に質問しても、回答の意味がわからず、質問と回答の繰り返しで1日が終わってしまったことも。自分自身にうんざりして、質問を躊躇(ちゅうちょ)するようになってしまいました。

「自分で頑張らなくてはいけないことはわかっていても、意欲がわかない」「先輩が教えてくれることが頭に入ってこない」「パソコンを開けない」といい、自分でも理由も分からぬまま、仕事中に涙が止まらなくなってしまうこともしばしばあるそうです。「何もできず悲しい。自分が全てダメだと思えてしまう」と訴えていました。

このまま仕事をしていても、うまくいかないことは目に見えています。そこで、実家に戻って静養し、近所の心療内科に通うなどして、体調が回復したら東京に戻ってくるように助言しました。ただ、それでも本人は「それは甘えではないか。周りの人の目も気になる」と納得できない様子でした。

彼女の場合、たまさか周囲が異変に気づいて産業医との面談に至りました。ただ、テレワークが広がるなか、そうした体調の変化に周囲が気づけず、そのまま放置されている事例も少なからずあるはずです。

「柔軟な働き方ができる」などと評価されることの多いテレワークですが、これまでなら雑談などで掬い上げることができた小さな変化などの把握は難しいようです。特に社会人としての経験の乏しい新入社員については、上司や同僚が配慮する必要があるでしょう。

テレワークで追い詰められる

テレワークがきっかけで、精神的に追い詰められることもあります。IT企業に勤める入社4年目の30代男性の事例です。

3月からテレワークで在宅勤務を始めたものの、1カ月ほどで、腹痛や下痢に悩まされるようになりました。

妻と乳幼児の3人暮らし。妻もテレワークで仕事をしているので、2人で交互に子供の世話をする必要があるといいます。頭では「当然のこと」と理解しているのですが、仕事が思うようにはかどらず、ついついイライラしてしまいます。

「こんな時期だからこそ、頑張りたいのに頑張れない……」。テレワークという従来とは異なる環境もあり、自分がやり遂げたいレベルまで、仕事ができない。仕事で一生懸命頑張りたいのに頑張れない。ちょうど新しい仕事を任されるようになり、これまでとは違う知識が必要なのですが、「勉強する時間もない」と漏らします。

在宅で働くうちに、いつも疲労困憊(こんぱい)して、強いストレスを感じるようになったといいます。「自分が我慢すればいいと思ってしまう性格もあってか、人に悩みを打ち明けられない」といい、妻にも打ち明けられずにいるといいます。

産業医として面談したところ、仕事に対してのモチベーションや向上心も高く、周囲に認められたいという「承認欲求」が強いように思えました。在宅勤務で上司や同僚との接点が少なくなったことから、「成果を上げて、認めてほしい」という気持ちをさらに高めたようにも見えました。また、在宅勤務で思うように仕事が進まないことにフラストレーションを抱えていました。

面談の結果、過敏性腸症候群の症状が認められたため、心療内科の受診を勧めました。あわせて、「自分自身で仕事のハードルを上げることはしないように」と助言しました。

職場のハラスメント防止を企業に義務付けるパワーハラスメント(パワハラ)防止法が6月1日に施行され、大企業に防止対策が義務付けられました。中小企業については、2022年4月から適用されます。ハラスメント行為は決して、リアルな職場だけのものではありません。リモートワークでも十分に注意する必要性が高まっています。

携帯電話でねちねちと

アパレルメーカーに勤める20歳代男性の事例です。

入社して2年半。幾つもの県を担当して、顧客を訪ねて回る営業担当者です。遠距離を移動するため仕事が終わるのは毎日午後9時や10時ごろ。週末を除き、ホテル生活を余儀なくされています。

ようやく仕事には慣れてきましたが、倦怠(けんたい)感や動悸(どうき)に悩まされ、夜も眠れないようになったといいます。

原因ははっきりしていました。以前の勤め先の先輩で、先に現在の会社に転職、男性を引き抜いてくれた上司です。

毎日、終業を見計らったように電話をかけてきて「おまえをヘッドハンティングしなければ良かった」「おまえが結果を出さないと俺が会社を辞めなければならない」と小言を言われるといいます。怒鳴ることはないものの、ねちねちと繰り返し、長いときには1時間ほどにもなるといいます。

日々の仕事で上司と対面することはありません。しかし、携帯電話の着信音が鳴ると、動悸が激しくなり、不安に襲われるというのです。電話を取ったとしても、緊張のあまり話せないこともしばしば。それがさらに上司の怒りを招きます。こうして、悪循環に陥り、体調不良がひどくなっていきました。

テレハラ、リモハラに注意を

上司との関係が社員のストレスの原因となることはしばしばあります。上司の言葉が、部下の発奮や能力向上を願ってのものだとしても、部下の気持ちに響かなければ意味がありません。一方的に責め立てるような言動は部下をメンタル不調に追い込む恐れがあり、そのような言動はパワハラとして受け取られる可能性もあります。

特にテレワークやリモートワークでの携帯電話やパソコンを使ったコミュニケ―ションには十分な注意が必要です。対面とは異なり、表情や感情を読み取りにくいため、何気なく投げかけた言葉が、部下を傷つけ、追い詰めている場合があります。

今回の事例では、このまま放置すると体調不良を悪化させる恐れが大きいため、本人の同意を得て、人事部長に内容を伝え、配置転換するように助言しました。

テレワークが推奨される状況では、実際に上司と対面する機会は少ないので、パワハラは起きにくいと思われがちです。しかし、決してそのようなことはありません。将来的に働き方も多様になってくると思われます。紹介した事例のような「テレワークハラスメント(テレハラ)」「リモートハラスメント(リモハラ)」なども注意が必要です。

オンラインによる研修講座も

たびたびパワハラ問題が発生する会社では、社内でのパワハラに対する認識が乏しいところが多いようです。まずは、厚生労働省が設けた職場のハラスメントについての情報提供サイト「あかるい職場応援団」(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/)の活用をお勧めします。さまざまな基礎知識に加え、オンラインによる研修講座も用意、確認テストに合格すると受講証明書が発行されます。

こうして基礎知識を学んだ上で、外部講師などを招いて実際の事例についてディスカッションなどを行えばより効果的でしょう。

コロナ禍を契機に、テレワークは今後さらに定着すると見込まれています。新しい働き方には、新しい向き合い方が、働く者と会社の双方に求められています。

※紹介した事例は個人を特定できないように一部を変更しています。植田尚樹

1989年日本大学医学部卒、同精神科入局。96年同大大学院にて博士号取得(精神医学)。2001年茗荷谷駅前医院開業。06年駿河台日大病院・日大医学部精神科兼任講師。11年お茶の水女子大学非常勤講師。12年植田産業医労働衛生コンサルタント事務所開設。15年みんなの健康管理室合同会社代表社員。精神保健指定医。精神科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。

投稿者: 瑚心すくい

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