雪国と東京、いいとこどり 2拠点生活で仕事にリズム

東京から新幹線で新潟県湯沢町に毎日帰宅する冨沢友里さん

東京から新幹線で新潟県湯沢町に毎日帰宅する冨沢友里さん

「仕事は楽しいけど、この働き方じゃ続かないな」。東京都渋谷区のIT企業の営業職、冨沢友里さん(29)は4年前、こんな思いを深めていた。残業は連日未明まで。翌朝はギリギリまで寝て朝食抜きで出勤した。徹夜作業で会社に寝泊まりすることも多かった。

川端康成の「雪国」の舞台、新潟県湯沢町で生まれ育った。都内の大学を卒業し、そのまま東京で働き始めたが、地元には愛着もあった。たまたま家業のスキー宿の手伝いで帰郷した際、知り合いの町役場幹部が声をかけてきた。「町が新幹線定期の補助制度を始めるぞ。帰ってこないか」

町が補助するのは月最大5万円。会社支給の通勤費と合わせると8万円を賄えた。JR上越新幹線で東京―越後湯沢間の定期券は月15万円程度。差し引き月約7万円の自己負担は、都内の家賃とほとんど変わらない。

上司に相談すると「面白いじゃん」と理解を示してくれた。2016年12月、湯沢町の実家にUターンし、片道約1時間半、新幹線に揺られる通勤生活が始まった。

帰りの終電は東京駅を午後10時28分に出る「Maxたにがわ417号」。仕事があっても、これに乗らないと帰れない。「帰る時間の『お尻』を決めることで、仕事の仕方を抜本的に見直すきっかけになった」。案件の進捗管理をクラウド上でできるツールを導入し、タスク管理を徹底。同僚には深夜にミーティングを入れないよう頼んだ。

取引先に「新幹線通勤なので、夜の作業には立ち会えない」と伝えると、かえって興味を持ってもらえた。「本当は、これまでも深夜まで残業する必要はなかったのかも」と気付かされた。

列車内でパソコンを開けば仕事を続けることもできるし、読書したりスマホをいじったりと、朝晩2回の「オフ」の時間にもできる。お気に入りは車両の最後部席。リクライニングを目いっぱい倒して仮眠する。

新幹線の車中で食事をとる冨沢友里さん(JR上野駅)

新幹線の車中で食事をとる冨沢友里さん(JR上野駅)

もちろん苦労もある。ほぼ確実に自由席に座れるとはいえ、毎日往復の計約3時間、狭い席に座り続けるのは肉体的には負担だ。終電を逃した時は都内の友人宅に泊めてもらった。寝過ごして目を覚ますと、約80キロ先の長岡駅だった。

それでも郷里に戻った選択に後悔はない。学生時代から続けるバレーボールでは、東京と湯沢の2チームに所属。フレックス制度を使って夕方退社し、地元チームの練習に参加した後、温泉で汗を流すこともある。「田舎は時間の流れもゆっくりで、食べ物も水もおいしい。都会暮らしと田舎暮らしの『いいとこ取り』ができている」

職場の同僚にも好影響が出た。夜のミーティングがなくなり、深夜残業や徹夜が当たり前という雰囲気も徐々に
薄れた。必需品だった会社の寝袋は、今やオフィスの片隅でホコリをかぶる。

冨沢さんが勤務するマイクロウェーブ(東京・渋谷)の担当者は「メリハリを付けた仕事をしようという意識を持つ社員が増えた」と話す。採用説明会などでは、地方の学生に向けて、冨沢さんが送る「2拠点生活」の事例を紹介することもあるという。

冨沢さんは今、湯沢町にサテライトオフィスを開設し、新幹線通勤すら不要な職住近接も構想する。会社側も「心身とも健康に働くだけでなく、地方の活性化にもつながる」と前向きだ。

「働き方って、もっと自由でいいのかも」。長いトンネルを抜けると一面、真っ白に染まる地元の雪景色を眺めつつ、そんなことを感じている。

文 倉辺洋介氏

写真 寺沢将幸氏

■新幹線通勤は増加傾向 自治体による補助も後押し
 新幹線を使った通勤通学の利用者は増加傾向にある。JR東日本の新幹線定期の輸送量は2009年度の16億6500万人キロから18年度は18億1300万人キロに増加。JR東海も09年度の13億5500万人キロから、18年度は15億1900万人キロに増えた。

 人口減少に悩む地方では、転出防止や移住、Uターン促進のため新幹線定期代を補助する沿線自治体も増えている。新潟県湯沢町のほか、埼玉県熊谷市は最大月約2万円、長野県佐久市も最大年30万円、栃木県小山市も月1万円を補助している。在来線でも、茨城県石岡市に特急料金の補助制度がある。
 企業でもヤフーが16年に新幹線通勤の補助制度を導入するなど、東京と地方の双方に軸足を置くことで働き方の多様化につなげる動きが出ている。

投稿者: 瑚心すくい

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です