全世代型社会保障改革に向けて 若者の働き方支える視点を

松元崇 元内閣府事務次官

ポイント
スウェーデンは高成長で政府規模を縮小
○有意な転職支える流動的な労働市場カギ
○国が成長しなければ国民の所得増えない

9月に発足した第4次安倍再改造内閣で全世代型社会保障改革担当相が設けられた。任命された西村康稔氏は「すべての世代が安心できる社会保障制度へと改革を進めたい」と意気込みを語る。社会保障改革と言われてすぐに連想するのは年金、医療、介護分野だが、日本の繁栄にとって重要なのは、若者の働き方を支える社会保障の改革だ。それを教えてくれるのが、近年のスウェーデンの動きだ。

図は、財務省の財政関係資料にある国民負担率の国際比較(「天の川」のグラフ)の横軸を潜在的国民負担率に置き換えたものだ。それにより、税と社会保険料に公債も加えた負担の全体像と、その裏側にある政府規模を比較できる。

 スウェーデンについては1995年から2015年にかけての20年間の動きが矢印で示されており、この間に政府規模が英国やドイツよりも小さくなったことが分かる。スウェーデンはかつて大きな政府で有名だったが、高い経済成長率により状況が変化したのだ。

ビル・エモット氏の著書「『西洋』の終わり」によると、スウェーデンは高い経済成長率を持続することで、1993年に国内総生産GDP)比で72%もあった政府規模を2007年には49.7%に引き下げた。GDP比で約22ポイントの引き下げは、GDPが550兆円の日本の感覚に当てはめれば、約120兆円にも相当する。

◇   ◇

スウェーデンの高成長の背景にあるのが選択と集中だ。選択と集中の時代には、企業の栄枯盛衰や個人の転職が当たり前になった。そこでは転職に際して、学校などで新たな技術を学び直す、そうした個人をしっかりと支える仕組みを持つ国の経済が成長するようになった。個人のキャリアアップを支える流動的な労働市場を持つ国の成長率が高まるようになったわけだ。

かつて転職が珍しかった時代には、そうした仕組みは経済成長にほとんど役に立たなかったが、それが様変わりしているのだ。

図でスウェーデンと正反対の動きを示しているのが日本だ。その大きな要因は、個人のキャリアアップを支える労働市場がほとんどないことによる低成長だ。日本の経済成長率は先進国の平均を1%ほども下回っている。その分だけ図の潜在的国民負担率の分母が大きくならず、負担率が上がっていくことになる。

すなわち550兆円のGDPの1%(5.5兆円)ずつ負担率が上がっていくということだ。その結果、1990年に米国よりも小さな政府だったのが、1995年には米国を超え、2015年には英国やドイツに近づいている。そして2060年にはフランスを超えていくと推計される。2015年から2060年までの45年間の累積で約247兆円もの負担増効果のせいだ。

日本でも個人のキャリアアップを支援する取り組みは始まっている。2019年6月の「骨太の方針」では、就職氷河期に正規社員になれなかった人々の再チャレンジを支援する方針が打ち出され、7月には内閣官房就職氷河期世代支援推進室が設置された。就職氷河期世代の正社員を30万人増やす目標が掲げられている。

2018年4月の週刊ダイヤモンドによれば、就職氷河期に就職できなかった人々がそのまま老後を迎えると、生活保護に依存せざるを得なくなる。「生活保護予備軍」は約147万人にのぼり、生活保護費は約30兆円にも達すると試算されている。そうした人々が再チャレンジして就職し、生活保護予備軍から脱却すれば、当人も幸せだし、日本のGDPも相当押し上げられるはずだ。ちなみに再チャレンジは、第1次安倍内閣が2006年に掲げた政策目標だ。

今日、2人で1人のお年寄りを支えているのが、少子高齢化で2050年には1人で1人のお年寄りを支えることになる。しかし今後約30年間で、高成長を実現し1人当たりGDPを2倍にできれば、2人で1人のお年寄りを支えるのと実質は同じになる。図のスウェーデンの動きは、それが可能なことを示している。

それを実現できずに、現在の低成長のトレンドが続けば、日本の潜在的国民負担率は早晩スウェーデンを超えていくことになろう。消費税率10%の日本の実質的な負担率が、付加価値税率25%のスウェーデンよりも重くなっていく。「スウェーデン・ショック」とでも呼ばれる状況だろうか。

◇   ◇

少子化の日本では、低成長はやむを得ないと言われる。しかし本当にそうだろうか。少子化でも高成長が可能なことは吉川洋・東大名誉教授も指摘している。実は日本の労働生産性は、他の先進国よりも随分と低い。米国と比べると、一部の業種を除いておおむね半分以下の水準だ。それは裏返せば、高成長の可能性を秘めているということだ。

かつてグローバルな南北問題が大問題とされたが、それは生産性の低い発展途上国が本来なら高成長を実現できるはずなのに実現できなかったからだ。しかし最近では、多くの発展途上国が先進国を上回る高い成長率を実現している。生産性が低い日本も同じで、高成長を実現できるはずだ。

問題は、若者の働き方を支える社会保障をつくり出すには、当面は相当のお金がかかるということだ。それはかつてスウェーデン大きな政府で国民負担率が高い、税金が高いと指摘された状態を、日本も一度はくぐり抜けていかなければならないことを意味する。臥薪嘗胆(がしんしょうたん)が必要というわけだ。

まつもと・たかし 52年生まれ。東京大法卒、大蔵省へ。スタンフォード大MBA。KKR理事長

まつもと・たかし 52年生まれ。東京大法卒、大蔵省へ。スタンフォードMBA。KKR理事長

そう言われると足元がすくむという向きが大半だろう。しかし他の先進国より成長率が1%ほど低い現状は、その分国民の所得が伸びないという形で、毎年5.5兆円ずつ隠れた増税となっているようなものだ。今回の消費税率2%引き上げによる負担増が4.6兆円だったことと比べれば、その規模が分かるだろう。

その結果、かつて世界で最高水準だった日本の1人当たりGDPは、今や経済協力開発機構OECD)諸国中で下位の水準だ。このままだと早晩アジアの中でも貧しい国になってしまう。現状は、気持ちの良いぬるま湯につかっていると思っていたら、知らない間にゆで上がってしまう「ゆでガエル」状態だ。

投資をしない会社が成長しないのと同様に、投資をしない国は成長しない。成長しない会社の社員の給料が上がらないように、成長しない国の国民の所得も増えていかない。そのことをまずは国民に理解してもらい、そのうえでこの状況を変えていくために何が求められるのかについて議論していかなければならない。

以上のような主張に対しては、米国が当面の負担増や臥薪嘗胆などはないまま高い成長率を実現しているのだから、米国と同じようにすればいいという反論があろう。それは国民の選択だ。ただし、それでは米国のような激しい格差社会になってしまう。格差を嫌う日本の国民性には合わないというのが筆者の考えだ。

最後にケインズ経済学には成長理論はないことを付け加える。米国もケインズ的な経済政策で高成長を実現しているわけではない。

下記がここまでの説明の根拠になっている(瑚心すくい)

国内総生産

実質GDP予測

 

投稿者: 瑚心すくい

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です