2人目OK 不妊治療脚光

10月 2, 2019 不妊治療, 晩婚出産

中国人の間で不妊治療がブームになっている。中国では夫婦の子供を1人に限る「一人っ子政策」が廃止され、2人目の子供を希望する夫婦が増えていることが背景にある。富裕層を中心に高度で安心な治療を求めて日本やタイなど海外に渡る患者もいる。日本では中国からのインバウンド(訪日外国人)向けの「不妊治療ツアー」も登場した。専門家からは「日本の医療の国際的立場の向上にもつながる」との期待の声も上がる。

「日本では一人ひとりに丁寧な診察をしてくれる。距離も近いので思い切って来日した」。9月17日、オーク住吉産婦人科大阪市西成区)を訪れた中国福建省アモイ市の中国人女性(28)は満足そうに話した。女性は2017年11月に結婚し1人目の子供の出産を願っている。女性は中国では不妊で悩む患者は近年増えているが、「治療まで何カ月も待たされるケースがあり、安心して治療を受けられない」という。

不妊治療は体外で受精させた胚を子宮に戻す「体外受精」や精液を子宮に入れる「人工授精」などがある。身体的にも精神的にも負担が大きく、周囲のサポートが欠かせない。日本では保険のきかない自由診療が中心のため、費用も数十万~数百万円ほどかかるケースが多い。

産婦人科を運営する医療法人オーク会は大阪と東京を拠点に不妊治療など生殖をサポートする病院を運営する。これまで中国から訪れた受診者は年間約100人に上る。増加に対応して中国語のホームページを開設したほか、中国語対応のスタッフも採用した。帰国後も中国で広く利用される交流アプリ「微信ウィーチャット)」を通じて病院と患者がやり取りしている。担当者は「中国人観光客の来院は毎年2~3割ペースで増えている。不妊治療に合わせて周辺の観光も楽しんでいるようだ」と話している。

中国政府は1980年ごろから始めた「一人っ子政策」を撤廃し、16年から夫婦に2人目の出産を認めている。医療法人オーク会の田口早桐医師は「日本と中国は立地的にも近いほか、欧米と異なり体格も似ている」と話す。「ここ3~4年で中国人観光客の受診が増えた。中国では2人目の子供を欲しがる夫婦が増える一方、不妊治療に対応するクリニックが足りていない」とも指摘する。

中国国家衛生健康委員会の調査によると、生殖補助医療を提供する病院は18年時点で498件(人工授精のみを行う病院を含む)と日本より2割ほど少ない。

日本では中国からのインバウンドの不妊治療を支援する動きも出ている。情報サイト運営のコエル(東京・北)は18年9月に翻訳・通訳会社インジェスター(東京・千代田)との協業で支援事業を立ち上げた。

中国人観光客向けの「桜花揺籃」は人工授精や体外受精など患者の要望に合わせた事前のカウンセリングをテレビ電話などを通じて行い、適切な病院を紹介する。航空券や宿泊先の手配に加えて、医療に詳しい通訳の手配や滞在に必要なビザの取得なども代行する。完全オーダーメードの医療ツアーで、富裕層をターゲットに据える。顧客が要望すれば滞在中の観光ツアーも提供している。

中国人口協会によると中国では晩婚化や大気汚染などの環境問題に伴い深刻な不妊問題を抱え、15年時点の患者数は4000万人を超えているという。コエルの伊藤ひろみ代表取締役最高経営責任者(CEO)は「海外からの患者を呼び込みたいという病院のニーズもあるが、医療専門の通訳を置いているところは少ない」と強調する。「悩みを抱える患者が異国の地でも安心して治療に臨めるよう、言葉の壁をなくしたり、滞在中のサポートをしたりすることが必要だ」と話す。「桜花揺籃」の認知度向上を目指し、今後はSNS(交流サイト)などで情報発信を進める計画だ。

体外受精ブームを背景に大勢の中国人が東南アジアや米国など海外にもなだれ込んでいる。タイでは不妊治療を提供するクリニックの中には中国人の患者が全体の8割に及ぶ病院もあるという。AFP通信によると、海外のクリニックでは第2子を求める中国人患者へのマーケティングを強化しており、中国語を話す職員を補充し、中国語のウェブサイトを作成しているという。費用も中国に比べて海外では数倍になるが、質の高い治療が受けられると考える中国人も多いと指摘している。

インバウンドに詳しい近畿大の高橋一夫教授(観光マーケティング論)は「インバウンドの日本に対する安心感や清潔感など受け入れ体制への評価が医療にも広がっている。日本の医療の質の高さを世界に発信する機会でもある」と期待する。「滞在中に同行した家族が観光や買い物を楽しむなど周辺にも効果が波及する」と話している。

  (国際部・加藤彰介氏)

投稿者: 瑚心すくい

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