旅館を憧れの仕事に(3) 陣屋女将 宮崎知子さん

 傾いた旅館の経営を任されることになった夫婦。旧態依然とした世界は戸惑いの連続だった。

まず従業員の多さに驚きました。20ほどしか客室がないのに120人くらいいました。しかも平均年齢が高い。学生アルバイトを除けば、当時32歳だった我々が最年少です。40代でさえ、ちらほらいる程度。「組織として脆弱だな」と思いました。

役割が細分化され、接客でも部屋の担当、レストランの担当と分かれています。それ以外はやりません。忙しいときにフロント係に布団を敷いてもらおうとすると、「私にそういうことをさせるつもりですか」と文句を言われました。予約台帳から売り上げ計算まで、すべて手書きだったことも驚きでした。

宿泊料金は1泊2食付きで1万4千円だったところを9800円で販売していました。忙しいだけで、もうかりません。部屋数に限りがあるなか、単価を上げるしか道はない。目先の稼働率を気にするのはやめて、5年かけて1泊3万円くらいの宿になろうと考えました。

 持ち味は思い切りの良さだ。ためらうことなく、矢継ぎ早に改革案を打ち出した。 

主人が勤めていたホンダでは自動車レースのF1を「走る実験室」と呼ぶそうです。我々も実験室をつくることにしました。特別なときしか使っていなかった貴賓室を宿泊可能にし、料金を高く設定しました。従業員のトレーニングの場にすれば、一般客室のサービスが向上すると考えたのです。

料理長に「採算度外視で」と言ったら、最初は原価7万円の料理が出てきました。全部は無理でも、一品だけ取り入れる。食材の見直しで原価を下げつつ、美しくて驚きのある盛りつけにする。そんな要望を出し、試食会を繰り返しました。4、5カ月するとお客様から「おいしくなった」と声をかけていただけるようになりました。

改革で大切なのは「スモールスタートアップ」ではないでしょうか。勝算6割でも走り出す。小さく始めれば失敗しても修正できるし、あきらめて白紙にしてもいい。機が熟すまで待とうとすると、かかった時間や労力を考えて決断が遅れ、逆に機を逸する気がします。

  トップの号令だけでは再建は進まない。従業員の意識改革にも心を砕いた。 

サービスを良くするには従業員がマルチタスクで働く必要があります。自分で考え、行動しなければならないからです。

抵抗はありました。職域を広げるために人事異動しようとすると、「左遷させられる」「部下をとられる」と号泣されたこともあります。どんな旅館にしたいかという青写真を説明し、「あなただったら先頭を走ってもらえる。一緒にやってほしい」と一対一で説得しました。

重視したのは情報開示です。経営数値などを共有すれば、従業員は指示待ちから脱却できます。初めのころは必ず目につく場所にパソコンを置き、毎月の売り上げと損益分岐点を示しました。今は独自開発したシステム「陣屋コネクト」で、会社の預金額も見られます。

投稿者: 瑚心すくい

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です